イオン従業員の笑顔をAIが「教育」
先日、スーパーマーケットの「イオン」全店にて、「店員の笑顔を評価するAI」の導入を検討中との報道があった。
同社では既に一部店舗でAIを実験的に導入。店舗スタッフの研修用に、口角の角度や声の大きさ、言葉の抑揚、滑舌などの基準を設定し、出勤時に1日30秒、AIによるトレーニングを実施した。
結果として、導入店舗では笑顔と挨拶の実施率が、3カ月で約1.6倍に向上したのだという。実験に参加した従業員からは「気持ちが明るくなる」「ランクアップしていくのがうれしい」など好評とのことで、イオンでは今後全店での導入も検討していくとしている。
このニュースに対し、ネット上では「曖昧な対面指導よりも、スキルが数値化されて評価されればやる気が出てよいのでは」といった好意的なコメントも見受けられたが、反響の多くは「感情まで管理されるなんて怖すぎる」「機械的な評価だけに頼り、サービスに血が通っていない」「ディストピアとはこのこと……」といった否定的なものであった。
手厚すぎる接客は誰もトクしない
わが国の接客サービスを見渡すと、確かに丁寧ではあるものの、「店員さんにそこまでやらせる必要があるの?」「一体誰が求めてるの?」と疑問を抱くような場面を多く見かける。たとえば……
・従業員通用口から店頭スペースに出入りする際、深々とお辞儀をするスーパーマーケット
・購入品を丁重に包装した後、店員がわざわざ店舗出口まで持っていってから渡し、客を外まで見送るアパレル販売店
・入店時や注文時、厨房を含む全スタッフが大声で「いらっしゃいませ!」「ありがとうございます!」と唱和する飲食店
・注文時、店員がうやうやしく片膝をついてオーダーをとる居酒屋
・開店時、店員が総出で通路に並び、来店客一人一人に丁重な挨拶をするデパート
このあたりは、読者諸氏も経験されたことがあるのではなかろうか。
元はといえば、高級感を演出することで他店と差別化し、顧客満足を獲得するための工夫であったはずだが、支払う対価に見合わない過剰すぎる対応ゆえに、客側が居心地の悪さを感じてしまったり、対応自体は丁重ではあるものの、あまりにマニュアル的で心がこもっておらず、却って鬱陶しい印象を抱いてしまったりするなど、余計な労力をかける割に、結果的に誰もトクしない状況になっているように思われてならない。
なぜこんな本末転倒な事態になってしまったのだろうか。もしかしたら、それはわれわれが高品質サービスだと認識している「おもてなし」にまつわるカン違いが原因かもしれない。