日本でブラック企業が絶滅しない理由
筆者は仕事柄、労働環境が劣悪な「ブラック企業」の問題についてよくコメントを求められる。中でもよく問われるのが、「これほど社会的な問題になって長く経っているのに、なぜいまだに淘汰されることなく生き永らえているブラック企業があるのか?」というテーマだ。
長くなるので詳細はまた別機会に述べるが、「労働法規と労働行政の問題」「日本的雇用慣行の問題」「経営者と従業員の問題」に加えて、必ず筆者が挙げる理由のひとつが「ブラック乞客」の存在だ。(「乞客」とは、ホワイト企業アワードを受賞したシステム開発企業「アクシア」代表の米村歩氏が提唱した概念で、「理不尽な要求をしてくる悪質顧客」のことを指す)
「顧客の要求」については、「見る目が厳しい日本の消費者の要求水準に合わせようと努力したことで、高品質の製品やサービスが生まれた」と肯定的に捉える向きがある一方で、「サービスや商品に完璧を求め、無限に要求をエスカレートさせるモンスター客や悪質クレーマー対応のために、過重労働が強化される」と批判的な文脈で捉えられることもある。
「ブラック乞客」が過剰なサービスを強いる
後者については、日本社会そのものの風土と密接に関係しているといえるだろう。長らく儒教的文化の影響を受けたことも一因かもしれないが、「立場が下の人は上の人の言うことを黙って受け入れるべき」かの如き無言の社会的圧力があり、それに対して異論を唱えることは「和を乱す」行為と捉えられてしまう。
教育やスポーツ指導の現場で、いまだに体罰やパワハラがニュースになり、職場で相変わらずセクハラやモラハラが横行しているのもその延長線上にあるのかもしれない。
「ブラック乞客」も同様である。彼らは「金を出してるんだから言うことに従え」「お客様は神様だろ⁉」といった意識が根強く、自らの立場を「上」と見なし、過剰な水準のサービスを悪気なく従業員に強いる。結果的に、対抗手段をもたない末端の労働者が給与に見合わない過剰労働を強いられることにつながってしまうのだ。