負荷が大きい「人口オーナス期」に突入

決定的な流れの変化は、大手広告代理店で起きた社員の過労自殺事件であった。これ以降、労働基準監督署もサービス残業や名ばかり管理職の問題を厳しく指導するようになり、世間の目も厳しくなっていき、法律改正への後押しとなった面があると思われる。

戦後日本は長らく「人口ボーナス期」に恵まれていた。この時代には、大量かつ均一な商品やサービスが求められるため、男性ばかりで長時間労働する同質的な組織が大成功し、その状況に最適化した人事制度や雇用慣行を今まで使い続けてきた。

しかし、高齢者に比べて労働力人口が少ない「人口オーナス期」となり、モノがあふれてすぐに飽きられ、買い手も減少していく時代となっては、大量生産よりも「商品やサービスにイノベーションが起きること」「多様な発想が生まれること」「育児や介護などの制約条件があっても働き続けられる組織であること」の重要性が増している。

会社を選ぶ男性の手元
写真=iStock.com/takasuu
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働き方改革が最優先の経営戦略になりつつある

また働く人の価値観も多様化し、報酬のあり方も決して「出世」や「昇給」ばかりでなく、「働く場所と時間」「副業」「ワーク・ライフ・バランス」などの「自由」や「柔軟性」が確保されている状態こそが魅力的な報酬と捉える傾向もある。

2015年ごろが一つの潮目であり、そのころから改革を実践してきた企業では、いま現在確実な成果が出ているところが多い。今後は働き方改革が単なる「福利厚生の一種」といった認識ではなく、「最優先すべき経営戦略」として位置づけられ、その流れに乗り遅れた企業は、採用困難化、人材流出顕著化など、着実に悪影響を被ることになるだろう。

実際、先進的な取り組みをする経営者が「働き方を変えてみたら、社員の結婚や出産が増えた」といった事例を発信するようになり、「このままでは社会だけでなく、企業も持続可能ではない」とマインドを変え始めた。

ようやく、男女ともに採用して短時間で効率よく働き、さまざまな人を内包する多様性のある組織にした方がいいとの実感が広まりつつある。

ぜひ「ブラックのままでは生き残れない」との認識が一般化し、すべての働く人が働きやすい環境を享受できる社会となるよう祈念するし、筆者自身もそのような社会を実現すべく働きかけ続けていきたい。

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