今日の敵でも明日は? 関係改善の余地は残す

私は2005年までキャリア外交官として勤務し、最後は対北朝鮮外交の最前線におりました。わが国としては拉致問題について一歩も譲ることができない。同時に関係性を進める交渉もしないといけません。NOを言いながらも、次に向けた条件を提示する。そういう経験を積みました。

外交の現場においては「NOを言うことで何を得るのか」を考えることが必須です。NOを言うことで関係を完全に切ってしまうのか、NOを言ったからこそ次の交渉に進むのか。

前者のように関係を切ってしまうにしても、こちらから切るのではなく、向こうからNOを言わせるように仕向けることが大事です。状況は常に激しく変化します。今日の敵が、明日は味方になるかもしれません。関係改善の余地を残すため、NOは向こうに言わせるようにすべきです。

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写真=iStock.com/Deagreez
※写真はイメージです

わが国のビジネスパーソンは、今この瞬間に起きていることについて分析するのは得意です。これはこうでこうで……というように、すごくきれいな絵を描くんです。

ところがシナリオ思考と呼ばれる、今後局面がどう動くのかという動的な分析は、大変苦手です。どう動く可能性があるのか、それぞれがどのくらいの確率かといったシナリオを、日々作り変えていく必要があるのですが、そのための訓練を受けていないのです。意外と行き当たりばったりの人が多いようです。

もうひとつ交渉の際に日本人が苦手とするものがあります。感情と議論を分けられないことです。話し合いの場で感情的になっては、良いことなどひとつもありません。

怒りが込み上げてきても、少しの間我慢すれば、自然におさまっていきます。馬鹿らしく聞こえるかもしれませんが、私は外交交渉の最中に怒りを抑える必要があるときは、頭の中で美しい南の島の海岸を思い浮かべて心を鎮めたりしていました。

ただし演技として計算ずくで怒ってみせるのはいいと思います。

ドイツと年金に関する交渉をしたときのことです。平行線の話し合いが続く中、向こうの交渉担当官が「これは絶対に無理だ」と突然怒り出したんですよ。その結果、交渉は真夜中に持ち込まれることになりました。時間を気にすることになるのは日独どちらか。そこまで計算しているのです。怒るタイミングをよく考えているな、と感心したことを思い出します。

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