飛行機の座席をリクライニングすることによって生まれる(もしくは失われる)空間は、前列・後列のどちらの人のものなのか。コロンビア大学のマイケル・ヘラー教授とカリフォルニア大学のジェームズ・ザルツマン教授の著書『Mine! 私たちを支配する「所有」のルール』(早川書房)より、一部を紹介しよう――。
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「リクライニングさせない器具の装着」はアリか

ジェームズ・ビーチは大柄な男で、身長は180センチ以上ある。ニューアーク発デンバー行きのユナイテッド航空機に乗り込んだビーチは、離陸後すぐに前席の背中についているテーブルを出し、ニー・ディフェンダーを取り付けた。

これは「座席のリクライニングを防いで膝を守る」というかんたんなプラスチック製の固定具で、21.95ドルで販売されている。これをテーブルの支持部に取り付けると、前の座席はリクライニングができなくなるという仕掛けだ。ニー・ディフェンダーの販売サイトには「座席のリクライニングができないようにするので、あなたはもう膝を縮こめなくてよい」とある。

ニー・ディフェンダーでスペースを確保したビーチはおもむろにノートPCを取り出した。

ニー・ディフェンダーは宣伝文句に違わず、前の座席のリクライニングを完全に不可能にした。前の座席の乗客は「背もたれを倒してくつろぎ、空の旅を楽しもうとした」が、背もたれはびくともしない。彼女は客室乗務員を呼び、乗務員はビーチに固定具を外すよう頼んだ。だがビーチは従おうとしない。

「リクライニング」を巡るトラブルは頻発している

激怒した女性は背もたれを激しく叩き、その勢いでニー・ディフェンダーが外れ、ビーチのノートPCは落ちそうになった。ビーチはすばやく背もたれを押し返してニー・ディフェンダーを再び装着する。女性は自分の飲み物をつかむといきなりビーチにぶちまけた。

そこから先のことははっきりしない。ともかくも機長の判断で同機は行き先を変更してシカゴに緊急着陸し、2人を降ろしてからデンバーに向かった。デンバーには1時間38分遅れで到着している。

同じような騒動が頻発している。最近の出来事は動画で拡散された。ニューオーリンズ発ノースカロライナ行きのアメリカン航空機に搭乗したウェンディ・ウィリアムズは、さっそく座席をリクライニングした。ところが後ろの席の男性客は最後尾だったため、リクライニングができない。

イラついた彼は、ヒステリーのメトロノームよろしくウィリアムズの背もたれを何度も押し返した。高高度で起きたこの悶着をウィリアムズは逐一撮影してアップロードし、ネット上で大いに話題になったものである。