車いすユーザーの女性が映画館を利用した際、車いすを担ぎ上げる必要がある席での利用を断られたことをSNSに投稿し、議論を呼んでいる。桜美林大学の西山守准教授は「トラブルが起きるたびに障害者への対応のあり方や、障害者側の態度に対する賛否がSNS上で巻き起こる。だが、重要な視点が抜け落ちているのではないか」という――。
車椅子の男性
写真=iStock.com/Rich Legg
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イオンシネマでの車いす客への対応を巡るトラブル

近年、障害者への対応に関するトラブルをメディアやSNSで目にする機会が増えているが、先週、また議論を呼ぶような出来事が起こった。

車いすインフルエンサーの中嶋涼子さんが、都内の映画館「イオンシネマ」で映画を鑑賞した際に、スタッフから他の劇場に行くことを勧められたことをX上に投稿し、映画館の運営会社イオンエンターテイメント社が「弊社従業員による不適切な対応に関するお詫び」とする謝罪文書を発表した。

この一連の騒動に対して、ネット上では賛否両論が入り交じる議論が巻き起こった。

映画館側を擁護する主要な意見としては「通常業務以上の対応をする必要はない」「障害者だからといって、過剰な要求をすべきではない」というものが見られた。

一方で、中嶋さん側を擁護する意見としては「映画館側の対応が不適切だ」とする声や、障害者の日頃の不便さや苦労を思いやる声、支援の強化を求める声などが目立った。

正当な主張か、不当なクレームか

筆者は企業のリスク対応や炎上対策に携わってきた経験から、「トラブルは当事者間で解決するのが基本で、SNSや動画共有サイトで発信することは好ましくない」とする立場を基本的に取っている。

しかし、障害者のインフルエンサーの中には「積極的に自身の体験を発信することで、世の中を変えていきたい」と考えている人もいる。第三者からすると、その行動が正当な主張と見えることもあれば、不当なクレームに映ることもある。それによって、論争が巻き起こっていく。

障害者をめぐる“炎上事件”は断続的に起こっている。そして、炎上が起きるたびに障害者への対応のあり方や、障害者側の態度に対する議論が巻き起こる。今回のようなケースを議論する際は、「どちらが良い/悪い」といったことでなく、その背景にある人々の意識のあり方や社会制度の問題も併せて考え、双方が納得できるような解決方法を探っていくことが重要だ。