イオン「バーリアル」は「お金だけの関係ではない」

――2026年10月の税額が統一された後も、エコノミーな商品は残ると予想されます。安価な商品へのニーズはあるからです。特に大手流通のPB(プライベートブランド)は店頭での売価は安く、増えていくはず。メーカーにとって、PBは工場稼働率を上げられる反面、商品の自主権がありません。売れなければ、打ち切られてしまうリスクも伴います。PBをどう位置づけていますか?

【南方】PBを任せていただける、という(流通企業との)信頼関係が大切だと考えます。単純に造って納めるというだけではない、PBをきっかけとしたパートナーシップを築いていくのです。キリンが造るPBが人気になれば、スーパーやコンビニに来店するお客さまに喜んでいただけますし、(発注先である)流通企業の企業価値向上に、間違いなくつながりますから。造って売るだけの、お金だけの関係ではないのです。

〈キリンのPBのなかでも生産量が大きいのが、イオン向けの「バーリアル」。2018年6月、イオンは「バーリアル」(当時は旧第3のビール)の受託生産先を韓国大手のOBビールからキリンに切り替える。しかも、キリンとイオンは卸を介さない直接取引で始まり、「バーリアル」の店頭価格は80円台となった。卸からは「俺たちを、何だと思っている!」と当初は反発があったが、6年以上が経過してキリンとイオンの直接取引は定着する(なお、PBはすべてが直接取引ではない)〉

インタビューは東京都中野区の本社で行われた
撮影=門間新弥
インタビューは東京都中野区の本社で行われた

醸造の専門家として考える「技術者の手腕」

〈昨年の酒税改正を経て、「バーリアル」は発泡酒となる。さいたま市内のイオン系ディスカウントストア「ビッグ・エー」で調べたところ「バーリアルグラン リッチテイスト」350ml缶の店頭価格は消費税別で108円。同じ発泡酒のNB(ナショナルブランド)「淡麗グリーンラベル」は同138円、発泡酒②の「のどごし〈生〉」とサントリー「金麦」はいずれも同128円だった。

「PBメーカーは、自動車産業の部品会社と同じ立場。コストダウン要請はきついはず。このため、装置産業の代表でもあるビールだが、工場の稼働率を上げさえすれば利益を生める、という方程式はもうなくなっている」(ビール会社元役員)という指摘はある〉

【南方】私は醸造の技術者出身ですが、店頭でNBだけでなく「バーリアル」などのPBも、さらには他社製品を買って、味をチェックしています。同じ設備、同じ酵母を使っても、実はその時々で味は微妙に変わるのです。これをハンドリングして同じ味にしていくのが、技術者の手腕なのです。PBもキリンのブランドと捉え、高品質な商品を供給しているのです。NBだけを造るのがベストでしょうが、必要とあらばPBもやっていく。互いの信頼をベースにです。

キリンホールディングスの南方健志社長・最高執行責任者(COO)
撮影=門間新弥