王者「スーパードライ」とどう戦うか

〈新製品を投入すると、自社商品同士で競合し合うカニバリズムは、どうしても発生する。このため、キリンは主力の「一番搾り」をリニューアルして、カニバリに備えたといえよう。現実に、17年ぶりの新製品ビール「晴れ風」の登場にかかわらず、「一番搾りは8月まで前年比プラスを維持している」(キリン)という〉

――「一番搾り」の23年の販売量は2920万箱(前年比5.4%増)で、24年は同数(同0.0%)の販売計画です。一方「スーパードライ」は23年が7278万箱(同5.2%増)、24年は1.6%増を計画しています。販売量に2.5倍ほどの差があります。どう縮めていくのでしょう?

【南方】いたずらに数字だけを追うのではなく、「一番搾り」の新しい付加価値を提案し続けていくことが大切だと考えます。結果として、ブランド間の競争になることはありますけど。

〈ビールNo.1ブランドのアサヒ「スーパードライ」は1987年3月発売で、現在までリニューアルは2022年の一度だけ。No.2の「一番搾り」は1990年3月発売で、2009年に麦芽100%ビールに変えたのを皮切りにリニューアルは今回で6回目を数える。商品政策は対極である〉

キリンホールディングスの南方健志社長・最高執行責任者(COO)

アサヒとは対照的に複数ブランドで臨む

〈アサヒは「スーパードライ」への依存度が大きく、キリンは「一番搾り」以外にも複数の定番商品を持つ(発泡酒No.1の「淡麗」、健康系ビール類で初めてヒットした「淡麗グリーンラベル」、発泡酒②「のどごし〈生〉」など)。

ちなみに、スタンダードなビールで年間1000万箱以上を販売する最後のヒット商品は「一番搾り」。34年以上もスタンダードビールのヒットはない。「晴れ風」も、来年も売れて定番になれるかどうかが、実はポイントだ。また、キリンは家庭用に強く、アサヒは飲食店向けの業務用に強い。

今年上半期のビール類商戦は、サッポロビールだけが前年同期の販売量を上回った(1%増)。新製品を投入せず、主力の「黒ラベル」を中心に既存ブランド育成に集中したことが奏功したといえよう。キリンは2%減、トータルの販売量を公表していないアサヒは2%強の減少とみられ、サントリーは5%減だった。

この結果、4社合計のビール類市場は2.5%減の約1億5000万箱と推計される。首位アサヒと2位キリンの差は40万箱強の僅差であり、両社のシェアは35%前後で前年同期に比べ0.1ポイントほど縮まったとみられる。

キリンは2020年、11年ぶりに首位を奪取。コロナ禍が収束に向かい業務用が復活してきた22年、アサヒが再び逆転しいまも攻防が続いている〉

キリンホールディングスの南方健志社長・最高執行責任者(COO)