「金でひっくり返される」業務用をどう戦うか
――ビール類市場に占める飲食店向けの業務用は、かつては3割でしたが、コロナ前の19年で2割5分、コロナが明けたものの現在は2割程度と見られています。業務用の大半はビールですが、大手居酒屋チェーンとの契約更新時には大きなお金が動くこともあり、収益への貢献は決して高くはないとされます。業界平均よりも業務用比率の低いキリンは、お金のかかる業務用をどうしていくのでしょうか?
【南方】飲食店は、消費者がビールを体験する場。なので、業務用市場はとても大切。ワインやウイスキーなど他の酒類を含めたキリンブランドを育ててもらうパートナーが飲食店です。大手の居酒屋チェーンや外食企業に対してもメニューをはじめ、お客さまを呼び込むための価値ある提案をキリンが行い、互いにウィンウィンになる関係を築ければと、願います。
ただし、業務用市場での戦いは厳しい。営業にとって、競争の激しい戦場なのです。一定の経済合理性を求めないと、関係は長続きできません。一時的に、キリンブランドを扱っていただいても、すぐに切り替えられてしまう。
――業務用営業では、「金でひっくり返したところは、金でひっくり返される」などとも言われます。
【南方】やはり大切なのは、信頼関係だと思います。キリンと飲食店との。キリンブランドを楽しんでいただくファンを増やしていくため、互いにタッグを組んでいく。適切な資源配分をしていく必要がある。(ライバル社との)競争ではあるけれど、決して無理はしない。後になって、ビジネスが成り立たないような事態であってはならないのです。
経営は決して楽ではないが…
〈2019年10月1日の消費増税の後、ビールが減税される第一回酒税改正を1年後に控えた同年10月から年末にかけては、業務用をめぐり協賛金や出資金が飛び交うなど商戦が荒れた例は過去に多い。
大手居酒屋チェーンが扱うビール銘柄は、たいてい1つで毎年更新する。ビールがひっくり返ると、洋酒やワインなども連動して変わることは多く、取引金額も大きい。「契約更新の3カ月前から、眠れない日々が続く。商談先でアサヒの営業マンを見かけると、気になって仕方なかった」(キリンの元業務用営業マン)という告白もある〉
――ビール類市場は、ピークだった1994年を100とすると、2023年は58.5の規模に縮小しています。これは1977年から78年のレベルに相当する。人口減少、Z世代など若者のビール類離れ、さらにはキリン「氷結」のヒットに始まる缶チューハイなどのRTD(レディー・トゥー・ドリンク)との競合など、いくつもの原因はあります。
【南方】直近を申し上げると、コロナ前の水準には戻っていないものの、市場に活気は出てきています。
確かに、業務用の外食業界は人手不足な上、長時間労働も制限され、さらにお客さまのニーズは広がっている。なので、経営は決して楽ではありません。キリンとしては(8割を占める)量販市場に注力していく。投資を継続させて活路を拓いていきます。(後編につづく)