長生きできても生活のランクが落ちたり介護施設に入ったりしたくないという考えがある。心理学者の権藤恭之さんは「100歳以上の高齢者に会って話を聞くと、幸福感を得るためには、あるがままの状態を受け入れることが大事だとわかる。ある100歳の女性は、かつてはぜいたくな暮らしをしていたが、現在は月3000円のおこづかいで満足していると語った」という――。

※本稿は権藤恭之『100歳は世界をどう見ているのか』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。

会社の重役の妻としてぜいたくに暮らしてきた100歳の女性

2007年に大阪大学に移ってきて共同研究者たちと百寿者の話をまとめる機会がありました。そして幸福感の内実について、要素を抽出しました(図表1)。すると「前向きな気持ちで生きる」とか「制限の中で生きる」、あるいは「他者との良い関係性を築く」ことで「人生の充足感を感じる」ことがわかりました。

幸福感の中身はさまざまですが、その中で一番大事なのは「あるがままの状態を受け入れること」だと私は考えています。

100歳の女性Fさんを紹介しましょう。この人は旦那さんが会社の重役か何かをしていてわりあい贅沢な生活をしていました。いつも京都にお茶を飲みに行っていたと話されましたが、お茶といってもきちんと点てたお茶です。そういう生活だったので、スーパーでプラスティックのパックに入っている和菓子を見ると、「どなたがお食べになるのかしら」と思っていたそうです。

その後、家族が体調を崩し、自分は施設に入ることになりました。最初の何カ月間は泣いて暮らしていたそうで、「自分は不幸のどん底や」と思っていたそうです。ところがある時、施設でその「どなたがお食べになるのかしら」と思っていたパックの和菓子が出されて、ちょっと食べてみようと口に入れたら「あら美味おいしい」と驚いたことを話してくれました。

食べたことのないスーパーの和菓子をおいしいと思うように

そういう経験が重なって、私がお会いした時には非常に幸せに施設で生活していました。Fさんが自分から語ったのが毎月のお小遣いのことです。昔は贅沢をしていたが、今は月に3000円をお小遣いとしてもらっている。それで新聞広告を見て、いい本があると1カ月に1冊か2冊、1000円台のあまり高くない本を買うのが楽しくなったと。「以前は何でも手当たり次第に買っとったけれど、自由に買えなくなって、自分でああでもないこうでもないって考えて買うことがものすごい楽しみなんです」というのです。

私たちも美味しいものを食べたり楽しい経験をしたりしますが、Fさんのような話を聞くと、楽しみ方もさまざまだと感じます。最近は「アクティブ」という言葉をシニア世代に当てはめることが多いですが、活動的ではないけれど、頭の中で考えたり想像したり、いろいろな楽しみがあるのだなあと思うのです。