「100歳になると優しくしてもらうことがいちばんうれしい」

後日NHKの取材でFさんを再び訪問する機会があり、普段の調査とは異なり、撮影しながらの雑談の時にいわれたことがあります。「優しさがいちばん」という言葉です。「この年になると優しくしてもらうことがいちばん嬉しい」、そして、「ご両親に優しくしてあげてね、優しさがいちばん」、Fさんはそう何度も繰り返したのです。

この言葉は、私の金科玉条となっています。決して守れているわけではなく、心がけている程度のものかもしれません。同じ台詞を同じ歳ぐらいの人にいわれてもそこまで心に刺さることはなかったかもしれません。やはり100年の人生を生きてきた人の台詞は重みが違います。彼女の人生も決して順風満帆であったわけではないでしょう。教えてもらわなかったことも多いと思います。そのように人生を過ごしてきた最晩年に話されることは本当に価値があると思います。

他にもこういうことを話した人がいます。「新しくやってみたいことはもう年やからできんかなと諦める。十分なことはできんでも、諦めて落ち込んだりはせん。年かなという感じですねえ」。

OKサインを出す高齢女性
写真=iStock.com/Nayomiee
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「年だからあきらめる」という心境は、必ずしも不幸ではない

また別の人は、「少しは欲しいものがあるのではないですか」と聞いたら、「それは美味しいものを食べたいなと思うこともあるけど、もう諦めてますね。ええ、これでもう十分です」。

「諦めている」というと後ろ向きな感じがしますが、100歳くらいの人の「諦めている」という言葉には「自然に任せる」という要素が非常に強く含まれていることがわかります。後ろ向きではなくて、あるがまま。10年ほど前に映画『アナと雪の女王』がはやって、「レット・イット・ゴー〜ありのままで〜」という歌が大ヒットしましたが、そういう、あるがままを受け入れる状態になっているということではないかと思います。

中学生の時に聴いたザ・ビートルズの「Let it be」はメロディーが気に入りましたが、最近改めて聴くと歌詞が心に刺さります。まさに「words of wisdom」、知恵の言葉だと思います。もちろん、まだ人生の前半(どこまでが前半かは自分で決めればよいのです)にいる人は、もっと抗う必要があります。抗いと受け入れのバランスは人生のテーマですね。