坂本龍馬はNHK大河ドラマや小説で描かれ、いまでもファンが多い。東京大学史料編纂所教授の本郷和人さんは「専門家からすれば、坂本龍馬は歴史研究の対象にはならない。「薩長同盟の立役者」と言われるが、実際には西郷隆盛の使い走りでしかなかったという説を唱える研究者もいる」という――。(第2回)

※本稿は、本郷和人『日本史の偉人の虚像を暴く』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。

桂浜の坂本龍馬像
桂浜の坂本龍馬像(写真=baggio4ever/本山白雲作/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons

坂本龍馬も新選組も研究対象にはならない

日本史のなかでも、根強い人気があるのはやはり、「戦国時代」と「幕末」ですが、その理由のひとつは、いずれも個性的な英雄が登場し、そのキャラクターに感情移入したり、「推し」にしたりしやすいからなのかもしれません。

そのなかでも、とりわけ「幕末」の「英雄」と称される坂本龍馬や逸話揃いの新撰組には多くのファンがいます。

その人気にあやかって町おこしに使われたりもしていますから、迂闊なことは言えないのですが、歴史研究を専門とする身からすると、正直に言えば、坂本龍馬も新撰組も、研究の対象とは言えないのです。

日本史の偉人の虚像を暴く』でも、藤原道長や平安時代の歴史研究の薄さについて、門外漢ながら指摘させていただきましたが、やはり歴史研究の対象になりやすいのは、歴史のターニングポイントであり、エポックメイキングな偉業を成し遂げた人物やその周辺なのです。その意味でいうと、坂本龍馬も新撰組も、歴史の大きな流れにおいて、いったい何をした人物なのか、よくわかりません。

坂本龍馬にしろ、新撰組の隊員たちにしろ、いずれも歴史研究というよりも、小説や漫画、映像作品など、エンターテインメントの世界で深掘りされてきた人物なのでしょう。特に坂本龍馬の人気は衰えを知りません。