中東情勢が混沌としてきている。東京大学公共政策大学院の鈴木一人教授は「彼らは宗教が違うから分かり合えないわけではない。中東情勢を理解するためには、宗教というフィルターを外すことが大事だ」という――。(前編/全2回)
東京大学公共政策大学院の鈴木一人教授
撮影=プレジデントオンライン編集部

イスラエルとイランで戦争になる可能性は極めて低い

――イスラエルとパレスチナ・ガザ地区を実効支配する武装組織・ハマスの衝突から10カ月余りがたちました。8月には、ハマス幹部がイランの首都・テヘランで殺害され、イスラエルとイランの間の摩擦も高まっているように見えます。

【鈴木】実際には状況はコントロールされていて、状況がエスカレートしてイスラエルとイランの全面的な戦争になる可能性は低いとみていいと思います。

なぜかというと、イランはハマス幹部を国内で殺された程度では、イスラエルとの戦争に発展するほどの衝突をする理由がない。むしろ、そんなことで戦争になるのはメリットが何もなく、まっぴらごめんだとさえ思っているからです。

考えてもみてください。2020年にはイランの革命防衛隊の精鋭部隊であるコッズ部隊司令官で、最高指導者ハメネイ師のお気に入りだったソレイマニが、アメリカの攻撃によって殺害されましたが、その時の報復はイラク国内の米空軍基地に対するミサイル攻撃という限定されたものでしかありませんでした。

中東の人たちは、「自分たちにとって、ここでどういう行動をとることが自分たちの目指す世界の実現に最も効果的か」という一点でしかものを考えない。

だからこそ、イランは自国の最も大事な司令官の殺害であっても抑制された報復しか行っていません。「よくもうちの司令官をやったな!」といった感情よりも、どこまでやったら国家の存亡が危機に瀕するかを冷静に考えているのです。ましてや、ハマス幹部が殺されたからといって、国家を危機に陥らせるような報復に出ることはしないと思います。