海外に行く際、どんなことに気をつけるべきか。東京国際大学の武田康裕教授は「短期の旅行であっても有事など『もしもの場合』に備えるべきだ。特に韓国、台湾はそのリスクが、他国と比べて高い」という――。(前編/全2回)(インタビュー・構成=ライター・梶原麻衣子)
武田康裕教授
撮影=プレジデントオンライン編集部

人気観光地「台湾」「韓国」にある重大なリスク

――日本から台湾には年間500万人程度の観光客が、韓国には年間200万人程度の観光客が訪れています。

【武田】台湾や韓国は日本から近く、若者にも人気の観光地ですが、実際には特有のリスクがあることは知っておいた方がいいと思います。もし旅行先で何かあったとき、どのような行動を取ればいいのか。「何か」とはどういう事態なのかなど、事前に把握しておく必要があります。

日本政府による在外邦人保護が必要になる条件というのは主に2つあり、有事や災害が起きたからと言って、直ちに保護が必要になるわけではありません。

一つ目は、事態が非常に切迫しており、緊急事態にあるということ。
二つ目は、領域国、つまり滞在している国の政府が対応可能な状態にない場合。

通常の有事では第一に、領域国が滞在している外国人の保護に責任を持ち、それを超える事態になって初めて、それぞれの国の政府が自国民を保護・救出を担う事態になります。

この二つを前提として考えた場合、台湾・韓国はこうした事態に至るリスクが、他国と比べて比較的高いといえます。というのも、平時から有事への移行のハードルが低いという特殊な事情があるからです。

「一つの中国」というやっかいな問題

まず、台湾のケースから言えば、台湾は1972年の日中国交正常化以降、日本との間に正式な国交がなく、中国からすれば台湾は「中国の一部」であると主張しているという前提があります。そのうえで、中国は「武力による台湾統一も辞さない」と言い続けており、そのタイミングがいつ来るかは測りがたい。

長期滞在者は台湾に存在するリスクをよく知っていると思いますが、特に若い世代の訪台観光客となると、政治的に複雑な状況があるところへ観光に来ている、という意識をそもそも持っていません。

そのため、「何か起きるかもしれない」という事前の想定がないことに加え、「何かあったときにはほかの外国と同じように、台湾政府が日本人を保護してくれる。それが難しくなっても日本政府が何とかしてくれる」と無条件に期待している可能性があります。

しかし、台湾の場合は事態が急に切迫する可能性があると同時に、中国が「一つの中国」を理由に台湾内の外国人保護の責任は自分たちにあると主張する可能性もあります。

その場合、台湾政府の動きは制限されるでしょう。また、日本政府が自衛隊を派遣し、船や飛行機で台湾から国民を日本へ帰還させようとしても、中国政府が自衛隊機の寄港を認めない可能性もあります。