北朝鮮難民がソウルへ押し寄せる
また、韓国の場合も他国とは違ったリスクがあります。
第一に、1950年に勃発した朝鮮戦争が、1953年以降も休戦状態であること。つまり、平時でなく戦時が続いている状況にあるという点です。しかも首都ソウルは人気の観光地ですが、北朝鮮との軍事境界線から50キロしか離れていません。
もちろん、現時点で北朝鮮が韓国に地上侵攻を行う可能性は高くはありませんが、通常の砲弾が届く距離であることは知っておいた方がいいでしょう。
もう一つ、考えておかなければならないのは北朝鮮の体制が突如崩壊するというケースです。北朝鮮は個人支配の国ですから、トップが機能しなくなった場合の政権移行手続きが明確ではなく、急にパタッと体制が倒れ、北朝鮮国内に混乱が生じることが予想されます。
その際に北朝鮮国民が38度線を越えて韓国に押し寄せる可能性もある。難民の中には武器を持ってやってくる人もいるでしょう。この場合には在外邦人、特に旅行者などは避難・帰国が必要になります。
いずれの場合も、急に事態が切迫した場合の避難や保護、輸送と言っても万単位の日本人が滞在しており、旅行者だけでなく長期滞在者の中でも帰国を希望する人がいる。
そのことを考えると、台湾や韓国で有事が発生した際の邦人保護(外交的・領事的な手段で邦人の安全を確保する)や、自衛隊が協力する邦人救出(安全な場所への退避)を行うとなると、かなり困難なオペレーションになるでしょう。
「自衛隊が必ず助けてくれる」とは言えない
――台湾・韓国ともに治安もよく「一番近い外国」「はじめての海外旅行先」というイメージでしたが、特有のリスクがあるのですね。
台湾や韓国は日本から近いだけに、何かあった場合に帰国しやすいという面はあります。しかし一方で、緊急事態時には邦人だけでなく、各国の外国人もひとまず日本に脱出する、という事態も想定されます。
その際には九州が中心になると思いますが、受け入れ態勢を整えることができるのか。事前にシミュレーションや訓練をしておく必要があるでしょう。
また、災害などではなく人為的な有事だった場合には、同時に「日本有事」にもなり得る点は注意が必要です。
台湾であれ韓国であれ、軍事的な有事が発生すれば在日米軍が対処することになるのはもとより、その影響を考えた場合、自衛隊も有事対応で出動しなければならなくなります。その場合、自衛隊が在外邦人の救出にアセットを割く余裕がなくなってしまうかもしれません。