大事なのは「なぜ」を問い続けること
中東や欧米はお互いにそうしたやり取りを長年、重ねてきているので、お互いの発言を受け取る際の「相場観」がある。だから言ってもいない「合意」をブリンケンが発表するといってもネタニヤフがそれで怒るわけではないし、ハマスがその気になることもない。
実際に起きていること、行動を見るべきだというのはそのためで、報道の断片に騙されてはいけません。
――そのような外交の見方を身に付けるにはどうしたらいいのでしょうか。
国ごとの性質や考え方、相場観を身に付けることは重要です。また、「どうしてそうなるんだろう」と考えることも必要でしょう。
「なぜ合意したと言いながら、ブリンケンが一人で会見に出てくるのか」
「なぜ停戦協議の合意が何度もアナウンスされるのに合意が成立しないのか」
このように「なぜ」を繰り返すことで、make sence(道理を通す、理屈づける)していく。
その「なぜ」を考える際に気を付けなければならないのは、中東の場合はすぐに「宗教戦争だから、いつまでも終わらないのだ」「宗派が違うから分かり合えないのだ」といった宗教に絡む話が出てくることです。
彼らは宗教が違うから分かり合えないわけではない。先に述べたように宗教が違っても国交を回復したケースもあります。
宗教というフィルターは外す
中東における宗教は集団を作るためのコアであり、社会のシステムを動かすためのものです。何でもかんでも「ユダヤ教VSイスラム教」「スンニ派VSシーア派」という構図で説明しようとするからこそ、わからなくなってしまうところもあるでしょう。
中東に限らず、国同士が起こすさまざまな事象は、行動パターンに着目するだけで、宗教的な要素を入れなくても十分に説明できます。そのため、新刊ではよくある中東の「相関図」を掲載しませんでした。あの手のものは一見、状況を分かりやすくしているように見えて、実際には理解の妨げになるからです。
むしろ、「宗教がわからなければ中東は理解できない」という思い込みが、中東への理解を遠ざけてしまっている面もあります。コーランや聖書を読まなければといったってほとんどの人は読んでいませんから、ここで「やっぱり中東はわからない! 宗教がわからないからだ!」と思考停止に陥ってしまいかねません。
ですからまずは一度、宗教というフィルターを外して、行動パターンから「どうして会見を一緒にやらないのか」「司令官が殺されてもミサイル一発の報復で済ませるのはなぜか」「実際には合意していない停戦協議をなぜ発表するのか」という行動面から考えてみることをお勧めします。