ネタニヤフ首相が同席していないことの意味

アメリカが「イランが大規模報復の可能性」などと指摘するのは、それによって周囲が警戒するとイランがやりにくくなり、報復の効果が減じられるからで、そうした効果を狙って言っているのだということを理解する必要があります。

一方、イスラエルはイランが何らかの極端な行為に出れば、アメリカが関与してくれることになるため、それを狙ってイランを挑発しています。イスラエルはアメリカの力を借りなければ、イランには勝てないからです。

しかしアメリカは巻き込まれたくないし、イランはイスラエルとの戦争も、アメリカが関与してくるような状況も避けたい。そのため、アメリカが「イランによる大規模な報復の可能性」を指摘しても、実際にはそうはならないのです。

――アメリカはたびたび、「イスラエルがガザとの停戦協議に合意」とも発表しています。

停戦合意に関しても、字面ではなく実際に起きていることを見る必要があります。確かに停戦協議については何度も持ち上がっており、最近でもブリンケン国務長官が8月19日に「イスラエルが橋渡しの停戦案を受け入れた」と発表しています。

しかし会見はブリンケンひとりで行い、イスラエル側からは誰も同席していません。本当にイスラエルが合意しているなら、自分の口で言うはずです。言っていない以上、イスラエルは合意してはいないと見るべきです。

「京都人の会話」がヒントになる

これはどういうことかと言えば、ブリンケン、アメリカ政府は国内に向けては「停戦に向けて何か話が進んでいる」ように見せたい。また、イランに対しては「停戦合意を進めているんだから、撃つなよ」というメッセージを送っているに過ぎないのです。

――発表する以上、何か実が伴っているのかなと思ってしまいますが……。

そういうふうに物事はできていないんです。アメリカは、「ここでの発言によって、誰がどう動くか」を先まで考えて言葉を発しています。いわば、チェスをやっているようなもので「直接、イランに『攻撃するなよ』と言わずにメッセージを伝えるには何を言えばいいか」を考えて言葉を発しているのです。

外交の場面では、このようにテキストではなくコンテキストを読み、実際の行動を見て「なぜあんなことを言ったのに、実際には違う状況になっているんだろう」と考えていくことが必要になります。

日本でも、例えば「京都人の会話」はよくネタになりますが、直接的には言わずに相手に意図を伝えようとする話法がありますよね。「お帰りください」とは言わずにぶぶ漬けを出す、というような(これは都市伝説だという話もありますが、あくまでも理解を助けるための事例です)。

夕暮れの京都を歩く女性
写真=iStock.com/Diamond Dogs
※写真はイメージです

同様に、自分の本音を隠しながら、間接話法のように相手に何らかのメッセージを送る。腹の内を探り合う。相手の行動に影響を与えようとするときの作法があり、外交の場面では常にそれが展開されていると見るべきです。