「勉強も運動も人並みでぱっとしない」

「アプリからでも稼げるようになったのは、漫画家にとって大きなプラスですね」(丸山さん)

2021年に立ち上げた丸山さんの個人会社は、2024年3月期決算で年商5600万円超。印税収入が多くを占めており、原稿料も合わせると年間約5000万円を売り上げている。そこからアシスタントへの支払いや、少し前から力を入れ始めたYouTube配信の経費を引き、少なくとも年収2000万円を確保している。

「漫画家として経済的には『成功した』と言っていいですよね」

髪の毛には茶色いハイライトを入れ、あごひげ、派手な色のシャツ姿の丸山さんがこう語ると、カチンとくる読者もいそうだ。しかし、何の苦労もなく、丸山さんが今の成功を手にしているわけではない。

『TSUYOSHI-誰も勝てない、アイツには』の作者・丸山恭右さん
筆者撮影

「勉強も運動も人並みでぱっとしない。自分の価値を唯一証明できるのが『絵』でした」

こう語る丸山さんは学生時代、その得意分野を素直に伸ばそうとした。地元・静岡にある高校の美術デザイン科から武蔵野美大油絵学科に進む。

大手で作画を担当しても家賃すら払えなかった

1、2年生の頃、居酒屋やラーメン屋でアルバイトをしてみたが、「まったく使い物にならなかった」。この経験から、「サラリーマンは絶対に無理。絵で食べていくしかないと心に決めました」

在学中から、フリーのイラストレーターとして活動を始め、ゲームの背景や挿絵、キャラクター描きなどに取り組んだ。2015年に卒業してからは、集英社が手掛ける電子アプリ「少年ジャンプ+」にストーリーから考えたオリジナル漫画を持ち込んだ。1年以上かけて45ページも描いた気合が伝わり、アシスタントの仕事を紹介してもらえた。

2017年には、別の大手出版社が手掛ける歴史漫画の作画の仕事を得た。戦国時代の有名武将が題材だったが、合戦シーンもあったことから、「ともかく作画コストが高かった」。もらった原稿料から複数のアシスタント代を引くと、手取りにできたのは年収220万円ほど。月々20万円にもならず、どう節約しても、家賃6万8000円ほどが払えなくなった。親に立て替えてもらうしかなかった。

サイコミでの掲載は250話を超え、紙と電子版は累計で400万部を超えるヒット作に
©Kyosuke Maruyama・Zoo/Cygames, Inc.
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