太極拳で悪者をやっつける最強の「コンビニ店員」

それでも、別の道は考えなかった。「むしろ四六時中、絵を描く状況に自分を追い込みました。キャリアを積み上げている自信はありましたから」

そんな中、2018年、サイコミを運営するCygamesに業務委託として入社する。漫画事業部の作画スタッフで、生活はかなり安定した。

2016年にリリースしたサイコミは、〈脱自社ゲーム〉を目指し、2018年中に再創刊すべく動いていた。それに向けて社内で漫画のネームコンペがあった。そこでダントツの一位を獲った丸山さんと、大手出版社から招かれ、再創刊の責任者役となったZoo氏がタッグを組むことになった。Zoo氏が原作、丸山さんが作画担当となる。

丸山さんはある時、当時習っていた太極拳が「単なる健康法ではなく、実は強い」という話をZoo氏に披露した。「何それ、面白い!」と発展し、そこに「コンビニ店員」という要素を足して漫画の基本設定とした。

作業の様子。アシスタントは全員リモート勤務しており、何かあればLINEを使ってやりとりしているという
筆者撮影
仕事部屋の様子。アシスタントは全員リモート勤務しており、何かあればLINEを使ってやりとりしているという

中堅アプリの強みは掲載までのスピード感

こうして誕生したTSUYOSHIは、2019年の開始直後から人気となった。看板漫画を手に入れたいサイコミも、積極的に広告を出した。翌2020年から本格化した新型コロナウイルスの流行による「巣ごもり需要」も、追い風となった。

『TSUYOSHI-誰も勝てない、アイツには』より
©Kyosuke Maruyama・Zoo/Cygames, Inc.

デスノート』(小畑健/大場つぐみ)、『バクマン』(同)など丸山さんの最も好きな漫画は、週刊少年ジャンプに掲載されてきた作品が多くを占める。また、ジャンプ掲載作品はアニメ化やドラマ化を含め、マルチにコンテンツ展開されていく。それはマガジン・サンデーを加えた〈御三家〉とも同じ状況で、だからこそ多くの漫画家があこがれる。

その分、競争は熾烈だ。「サイコミだったからこそ、僕のジャンプ+の経験が活き、Zooさんの目にも留まった。早い段階で掲載のチャンスをもらえたのは、中堅アプリならではだった」

TSUYOSHIは、木曜日の午前0時に原則15ページ分、最新話を出す。毎週更新としたほうが、固定ファンがつき購入してもらえる。この安定供給に向け、丸山さんは「経営者目線での最大限のシステム化」を導入している。

『TSUYOSHI-誰も勝てない、アイツには』より
©Kyosuke Maruyama・Zoo/Cygames, Inc.