民主党は従業員代表を監査役会に入れるという「公開会社法」の制定の準備を進めている。会社統治の具体的なあり方を法律で定めることは貴重な財産といえる日本の会社統治の慣行を瓦解させてしまう可能性があると筆者は懸念する。

企業統治における代表的な3つの思想

民主党が会社統治の改革のために「公開会社法」の制定の準備を進めていると伝えられている。その中では従業員代表を監査役会に入れるという方向が考えられているようだ。株主主権を強化するという方向での自民党政権の改革路線の失敗を是正することが目的であるという。

この目的には賛成できるが、監査役会の中に従業員代表を入れるという具体的な手段は賛成できない。その理由を説明するために企業統治の問題を考える代表的な思想を振り返ってみよう。

より広く定義すれば、企業統治とは、いい経営を担保するための制度や慣行である。この問題を考えるための代表的な思想は3つある。

第1は、株主一元論。会社は株主のものと考え、株主のみに会社統治の権利と責任を与えようとする思想である。アメリカやイギリスで支配的な思想であり、これが世界全体に広まりつつある。日本の法学者や経済学者もこの視点から企業統治を考えることが多い。このような人々は、株主の意向を企業に反映させるのが企業統治であるという狭い見方をする。日本には企業統治が不在であったというような議論は、この思想をもとに行われていた。このような主張をする人々は、慣行として存在していた企業統治の機能を理解しようとしない。

第2は、労使二元論。ドイツの共同決定制度がこの典型である。この思想をもとにすれば、会社は労使共同のものということになる。労使が企業統治の権利と責任を分かち合うべきという思想だ。民主党はこの思想をもとにしているようだ。

第3は、多元論あるいは会社それ自体論である。会社を、特定の利害関係集団の手段としてではなく、それ自体としての存在意義を持つ社会的制度だとみなすので会社制度論と呼ばれることもある。この思想によれば、会社は公のものであると考えられる。あえて誰のものかと問われれば、皆のもの、あるいは誰のものでもないと答えることになる。会社法改革前の日本の会社統治の慣行はこの思想をもとに運用されていた。