『話の特集』における月経の語り

ここまでをまとめてみると、「顔」「胸」「尻」といったセクシュアルな身体の部位に言及する点までは他の女性誌と同様だが、性交や自慰といった記述の占める割合はきわめて少なく、他誌において語られる「性の解放」が、基本的にはセックスを指すことだとすると対照的である。

ビーチを歩くカップルのシルエット
写真=iStock.com/yamasan
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また、サブカル誌における女性の語りと比べても、『ビックリハウス』の女性たちの言及は独特だ。例えば「月経」に関して、『話の特集』連載「男たちよ!」で対談した中山千夏と小沢遼子(作家・浦和市議会議員)、山口はるみ(イラストレーター)は次のように語っている。

【千夏】 生理用品の支給にしても、生理休暇にしてもさ、男にはそれに代わるものがないじゃない、だから腹立たしいかな。

【遼子】 そう、それにね、昔から男固有のものに対する、男の差しでがましさったらないわね。想像を絶するのよ。(中略)女が男に言うことと比べたら盛大に男は言ってるわよ。

【千夏】 私が言ってる女性解放ってのは、いったいなんなのだろう、って考えたのね。それでね、ハタとうろこが落ちるようにわかったことはね、とにかく女のすることにとやかく言わないで欲しい、ってその一言なのよ。ほっといて欲しいってね。男のすることに、女がなんか言いましたかってね。
(『話の特集 200号 話の特集の特集』、247頁)

社会的な「性の解放」には至らない

中山らは終始、生理休暇の是非、トイレにタンポンを設置するか否かといった社会的な課題と連続する形で「月経」を語っているのに対し、『ビックリハウス』で語られる「自分でも困るくらいスケベになります」という「生理」語りにはそういった側面がほとんどない。

このような背景として、初代編集長・萩原朔美は『ビックリハウス』がパルコ資本であり、女性を主要な顧客層とすることから、セックスをはじめとする性的な話題に言及し難かったという経緯を語っている【*10】

富永京子『「ビックリハウス」と政治関心の戦後史 サブカルチャー雑誌がつくった若者共同体』(晶文社)
富永京子『「ビックリハウス」と政治関心の戦後史 サブカルチャー雑誌がつくった若者共同体』(晶文社)

また『ビックリハウス』の編集者たちが、いわゆる「キャリア・ウーマン」に代表されるようなキャリア女性と距離をとっていたことから、そうした女性たちとの差異化としてある種の親しみやすさを演出した可能性もある。

しかし、それだけでは「ブス」(32件)や「便秘」(16件)「デブ・肥満・ぜい肉」(12件)といった、自身の身体・容貌に対する卑下・貶めに関する記述をなぜ『ビックリハウス』の女性編集者と読者が繰り返したのか説明できない。この論点は本章の問いの範疇を超えるため第3部にて再度言及することとし、ここでは『ビックリハウス』の女性たちが他誌と同様に身体に関する語りを行ったものの、それが政治的・社会的な意味での「性の解放」に至らなかった点を指摘するにとどめたい。


*1 斉藤正美「クリティカル・ディスコース・アナリシス─ニュースの知/権力を読み解く方法論─新聞の「ウーマン・リブ運動」(1970)を事例として」『マス・コミュニケーション研究』第52号、1998年。江原由美子「フェミニズムの70年代と80年代」江原由美子編『フェミニズム論争─70年代から90年代へ』勁草書房、1990年。
*2 小形桜子『モア・リポートの20年』。桑原桃音「1970〜1990年代の『セブンティーン』にみる女子中学生の性愛表象の変容」桑原桃音「1970〜1990年代の『セブンティーン』にみる女子中学生の性愛表象の変容」小山静子・赤枝香奈子・今田絵里香編『セクシュアリティの戦後史』京都大学学術出版会、2014年。岡満男『婦人雑誌ジャーナリズム』。池松玲子「雑誌『クロワッサン』が描いた〈女性の自立〉と読者の意識」『国際ジェンダー学会誌』第11号、2013年」。
*3 谷本奈穂『美容整形というコミュニケーション──社会規範と自己満足を超えて』花伝社、2018年。
*4 小形桜子『モア・リポートの20年』など
*5 モア・リポート班編『モア・リポート』、37頁。
*6 『ビックリハウス』1982年9月号、110頁。
*7 『ビックリハウス』1983年11月号、60頁。
*8 『ビックリハウス』1983年3月号、60頁。
*9 『ビックリハウス』1983年8月号、126頁。
*10 萩原朔美氏インタビュー、筆者による。2022年10月19日。また、同内容の語りは『ビックリハウス』131号(2005年刊)でも見られる。

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