「女性の自立」を昭和期の雑誌はどのように描いてきたか。サブカル誌『ビックリハウス』(1974~1985年)を調査・分析した立命館大学准教授の富永京子さんは「女性の自立を支持しつつも、主婦からもキャリア・ウーマンからも距離を置く『働く女』たちの像が誌面に見える」と、女性の解放の“過渡期”であった当時を読み解く――。

※本稿は、富永京子『「ビックリハウス」と政治関心の戦後史 サブカルチャー雑誌がつくった若者共同体』(晶文社)の一部を再編集したものです。

防寒とかっこよさ ロングブーツが大流行
写真=共同通信社
1977(昭和52)年11月17日、東京・銀座を歩く若い女性の足元はロングブーツばやり。ピークといわれた前年は450万足が売れ、長めのスカートによく似合うブーツ姿が街にあふれた。

「結婚に逃げるってことは考えてないですか?」

『ビックリハウス』の女性編集者たちは、いわゆる「個の解放」、つまり女性の経済的自立や職業をもつということについて一貫して真摯である。

例えば、高橋章子編集長は男性読者との座談会の中で次のようなやりとりをしている(対談相手の氏名は「読者」と改めた)。

読者 僕、女の人をうらやましいと思うんです。自分のやりたいことがだめになったら、結婚に逃げるってことは考えてないですか? 僕が女だったら、そう考えて行動するんじゃないかな、男だと生きていく為に必ず職につかなきゃいけないでしょ。

章子 そういう考え、許せないなあ。女でも男でも、仕事に向う姿勢は同じはずなんだよ。GF[ガールフレンド]いる?

読者 いないです。GFでも、あんまり仕事ができるっていうのは望みません。りこうな女性ってのは好きじゃない。友達も、みんな「一人で独占したい」って考えですね。

(『ビックリハウス』1979年10月号、71–72頁)

「女の人は結婚に逃げられる」という男性の意見に対して、それまでは談笑していた高橋が「許せない」と切り返す。

また他の対談記事でも「アイツ女だからだって言われんの口惜しいからね、仕事の面ではキリッとしようとか思います」【*1】と仕事への真摯さと性別は関係ないと高橋は語る。【*2】

「主婦」に距離を置く『ビックリハウス』

こうした職業的自立に関する語り自体は、『話の特集』や『面白半分』に見られる中山千夏や市川房枝の主張とそこまで遠くない。一方、興味深いことに、時折投稿者や読者として「主婦」が出てくる際、彼女たちに対して『ビックリハウス』の編集者たちは距離を置くような態度を取る。

例えば以下は、高橋編集長が『ビックリハウス』ファンの28歳主婦に話を聞くという内容の記事である。

あなたにとって、BH[ビックリハウス]とは?

「家に入ってると変化がありませんでしょ、不安で……。社会的に合流するっていうか、その為に。主婦の友? 好きじゃありません! この間“3WC”[投稿コーナー「3WORDS CONTE」の略]に投稿しましたよ。デキ? どうかしらね」[中略]「チャップリンの一連のものは風刺がきいてますでしょ、庶民の抵抗できない権力に対して逆説的に笑いの中から抵抗するっていうか。笑いを普通の生活に持ち込むのはいいけど、BHのは単なる笑いにおわってしまうような……それがちょっとテイコウあります」

私、毎日、単に笑って終ってますけど。もっとも家帰ってから布団かじって泣いてますが。

(『ビックリハウス』1978年6号、136頁)