野球を原型として考案された球技「ベースボール5」が世界各国で広がっている。26年ダカール・ユース五輪の種目に追加され、将来の五輪種目入りを目指す。用具は専用のゴムボールのみで、素手で打つのが特徴だ。なぜ野球をしない国でも広がっているのか。スポーツライターの内田勝治さんが取材した――。

大谷選手の「野球しようぜ!」に応えられない日本

日本国内の野球離れは加速の一途を辿っている。野球普及振興活動状況調査によると、競技統括団体に登録している選手数は、2010年から2022年にかけて、161.7万人から101.7万人まで減少した。もちろん少子化の影響もあるが、これまで野球人口を下支えしてきた学童野球が29.6万人から17.0万人と10万人以上減少したことが大きく影響している。

野球を取り巻く環境は年々厳しくなっている。以前なら巨人戦を中心に毎試合のようにテレビ放送されていたプロ野球も、今では地上波で中継されること自体が珍しい。球技を禁止している公園や敷地も多くなり、野球に触れる機会は極端に少なくなった。

昨年末には大谷翔平選手(ロサンゼルス・ドジャース)がグラブを日本国内の全小学校約2万校に各3個ずつ、計6万個を寄付。「野球しようぜ!」と子どもたちに呼びかけたが、そもそもボールがないので、校長室に飾ったままになっている学校も多いと聞く。

近年の物価高も野球を始める上で大きな足枷となっている。グラブは硬式用と軟式用で価格に差はあるが、2万~3万円から、オーダー品となれば6万~7万円をゆうに超える。キャッチャーミットやファーストミットなど、必要であればポジションによって買い直さなければならない。

ユース五輪種目に採用された「ベースボール5」とは

さらにバットや、練習用、試合用ユニホーム上下、帽子やベルト、アンダーストッキングにソックス、スパイク、アップシューズ……。使用する用具は、挙げればキリがなく、一式をそろえるだけでも十数万円の出費は覚悟しなければならない。

公立中学では、教師の働き方改革の一環として、休日の部活指導を民間スポーツ団体などに委ねる「地域移行」がスタート。これまでの部活動から習い事になるため、活動には少なくない参加費がかかってくる。経済的理由で野球を諦めざるを得ないケースも今後増えるだろう。

ベースボール5は、そんな子どもたちの救世主になり得る可能性を秘めている。

ベースボール5はゴムボールを素手で打ち、塁を狙っていく。
筆者撮影
ベースボール5はゴムボールを素手で打ち、塁を狙っていく。基本的なやり方は野球と同じだが、テニスボールほどのサイズを狙って打つのが難しく、競技の醍醐味でもある。

元々はキューバで親しまれている手打ち野球が発祥で、2017年、世界野球ソフトボール連盟(WBSC)によって、野球、ソフトボール振興の一環としてスタートした。80カ国以上の国や地域で急速に広がりを見せ、2022年のダカール・ユース五輪の種目に追加されることが決定(新型コロナウイルスの影響で2026年に延期)。将来的には五輪種目採用を視野に、活動の幅を広げている。