たしかに新店とは取引がありません。しかし従来の店は彼らにとって得意先です。先々を考えれば、取引が拡大する可能性もあるわけです。ひとつの店の取引状況にこだわり、彼らは全体に目配りをしなかったのです。その米屋さんは、ほどなくつぶれました。
人はお世話になったら、あとでお返しをするものです。小さな損を重ねて「お世話」をし、やがて大きな得として返してもらう。それを待たずに、早めに利益を回収しようとすると間違えるのです。
私はいま、営業マンの訪問を受ける立場です。食材関係の営業マンとは人の紹介を受けてから会いますが、金融など畑違いの営業もやってきます。そういうとき、中井政嗣にぜひ会いたいという場合は基本的にお会いするようにしています。
なぜなら、千房は外食業です。営業マンは私たちのお客さんでもあるのです。店のファンを増やすには、営業マンにも親切にするのが当然です。
あるとき、朝一番にやってきた証券マンは「会えないのが当たり前と思っていたのに社長が会ってくれた」とたいへん感激してくれました。しかし、あまりに意外だったせいでしょうか、それきりその人は現れませんでした。
別に私は取引をしたいと思っているわけではありません。しかし、先々には取引が発生するかもしれないし、紹介の可能性だってあるわけです。そのチャンスを逃すのはもったいないと思います。
もちろん取引ですから、契約を失うこともあるでしょう。しかし、1回「切られた」からといって態度を変えるようでは、次の機会に大きな得を取ることはできません。あわてて撤退せずに、細い絆であっても、つないでおくことが肝心だと思います。
千房社長 中井政嗣
1945年、奈良県生まれ。乾物屋の丁稚からはじめて、お好み焼きチェーンを全国とハワイに展開。
1945年、奈良県生まれ。乾物屋の丁稚からはじめて、お好み焼きチェーンを全国とハワイに展開。
(構成=面澤淳市 撮影=浮田輝雄)