2024年4月から、イトーヨーカ堂はアダストリアと協業する新ブランド「FOUND GOOD(ファウンドグッド)」を始めた。「アパレル事業からの撤退」の方針を発表していたヨーカ堂は、なぜ新たな挑戦を始めたのか。両社の狙いはどこにあるのか。経営コンサルタントの岩崎剛幸さんがリポートする――。

なぜイトーヨーカ堂とアダストリアは協業を始めたのか

イトーヨーカ堂の衣料品平場をアダストリアが変革している――。

2024年4月に始まったこの取り組みはアパレル業界と流通小売業界を賑わす大変な話題になっています。なにしろ、イトーヨーカ堂は、「26年までに自前の衣料品企画開発からの撤退」を公表していました。その平場に、他社のアパレル企業アダストリアを招き、売り場改革を任せたのです。

イトーヨーカドー木場店のFOUND GOOD
筆者撮影
イトーヨーカドー木場店のFOUND GOOD

なぜ、わざわざGMS(総合量販店)の衣料品平場のような売り上げがとりにくそうな売り場に、アダストリアは飛び込むのか。

アダストリアの今の力であれば、わざわざGMSに入り込まなくても、十分に自前で自社ブランドを自社の選んだ立地に出店し、売り上げを拡大していくことが可能です。GMSが直営で管理運営する売り場に入っていく必要性はありません。

しかしアダストリアはあえてここに狙いを定めて参入しました。しかも30~40代の子育て世代向けの「FOUND GOOD」という新しいブランドを開発して臨んでいます。2024年7月までにイトーヨーカ堂64店舗への拡大を目指すそうです。

この取り組みにどんな意味と狙いがあるのでしょうか。「2社が協業して取り組むプロジェクト」ということ以上の、日本のGMS改革の成否を占う一大プロジェクトを取材しました。

総合スーパーでアパレル販売が不調のワケ

まず、最近のイトーヨーカ堂が置かれている状況と、アダストリアという会社のカルチャーと成長性を見ていきます。

GMSの基本になっているアメリカのスーパーマーケット理論の骨子は1930年に生まれました。

①ローコスト、②セルフ販売方式、③低価格商品の大量販売という考え方です。

こうした理論をベースに日本でも1957年に「主婦の店 ダイエー」がオープンしたのを皮切りに、大量出店による効果で小売業の中における地位を一気に確立していきました。

消費者自らがセルフで商品を選びカゴに入れ購入していくというセルフサービスは日本の食を大きく発展させました。

一方で、衣料品や住関連用品などはある程度の接客が必要です。しかし何よりも効率を重視するスーパーマーケット理論では、衣料品売り場も少ない人員で売り場をまわすのがルールとなっていました。

結果的に500~600坪の衣料品売り場を数名のスタッフでまわすような状況になり、全国のGMSで衣料品の売り上げは徐々に減少していきました。

セブン&アイはイトーヨーカ堂の衣料品事業から26年までに完全撤退すると宣言しています。イオンは低価格衣料店を自前で全国に200店舗以上展開していくようです。