丸亀製麺を運営するトリドールホールディングスの海外展開が好調だ。2024年3月期の海外事業の売り上げは、前年比43.3%増の647億1400万円。中でも丸亀製麺の海外店舗1号店となるハワイ店の売り上げは全店舗1位を誇る。なぜ丸亀製麺のハワイ出店は成功したのか。事業を支援したコンサルティング会社「トイトマ」社長の山中哲男さんが解説する――。

観光客が多くてもハワイは儲からない

トリドールホールディングスは海外で急速に店舗数を増やしていますが、中核ブランドである「丸亀製麺」の海外1号店は、実はハワイにあります。「MARUGAME UDONワイキキ店」は2011年のオープン以来、現在も世界の全店舗のなかで売り上げ1位の大人気店舗。私は、その立ち上げを支援しました。

トリドールホールディングスが運営する「MARUGAME UDONワイキキ店」
写真提供=トリドールホールディングス
トリドールホールディングスが運営する「MARUGAME UDONワイキキ店」

ハワイに縁もゆかりもなかった私が、先輩経営者たちの誘いで初めてハワイに行ったのは2007年のこと。当時、25歳の私は飲食店を経営していましたが、飲食業界のみならず、さまざまな企業から経営や店舗開発の相談がくるようになっていました。自分自身で事業に取り組むことにもやりがいを感じていましたが、チャレンジしている人をサポートすることが性に合っていたのです。

心臓をバクバクさせながらなんとか入国手続きを済ませると、ワイキキで見渡した景色は新鮮で、すべてが感動的でした。ところがそんな感動も束の間。同行した1人が声をかけて集まった現地の経営者6人に私が「これだけ観光客が多いともうかりそうですね」と聞くと、皆さんの顔が曇ってしまったのです。少し間があってから、1人が重い口を開きました。

「『ジャパニーズ・プライス』と言って、日本人は価格交渉に慣れていないので、テンナト料や内装費をふっかけられ高い金額を請求されるケースが多く、利益を出すのは簡単ではないよ」と。

真っ当な環境でチャレンジできるように

その話を聞いてから私は悶々とした気持ちを抱え、帰国してからも、何か自分にできることがあるのではないかと考えを巡らせていました。そして、気が付いたら航空チケットを取り、再びハワイに向かっていました。

自分自身が不当な金額を請求されたり、騙されたりしたわけではありませんが、ハワイで強く抱いた違和感をなんとかして解消したい――。日本の食文化を広めようとしている人が、真っ当な環境でチャレンジできるようにしたかったのです。

法律が違うし、商習慣もわからないなかで挑戦するには入り口から支援する必要があると考え、すぐに現地でさまざまな分野のパートナーを探しました。そうして会社設立から銀行口座開設、ビザ取得、物件選定・契約、テストマーケティング、採用、仕入れ、PRまでをワンストップで支援できる体制をつくりあげました。1回のハワイ旅行がきっかけで、コンサルティング事業を立ち上げることになったのです。

最初の1年弱は毎日、私が1人でサービス概要の資料とハワイの地図をもって「ハワイに出店しませんか?」と知り合いに声をかけ、経営者が集まるイベントにも参加していました。ところがなんの実績もない若者を頼る人はなく、時間だけが過ぎていきました。