「目の前でうどんを作り、できたてを提供する」

まず1つめは、「守るべきもの」と「捨てるべきもの」を明確にすること。

どんな事業を立ち上げる場合でも言えることですが、大前提として、大切にしている理念や想いを軸に事業を組み立てていくことが必要です。

さまざまな視点から思考を巡らせたり、いろいろな意見を聞いたりして計画書に落とし込んでいるうちに、いつの間にか大切にしていたことを忘れてしまう。一見よさそうなことだけに目がいってしまい、悪い意味で、まったく思いもよらなかった形になってしまうことがあります。これは海外展開でも同じです。

また、本質を理解せずに流行っているものをマネしたり、過去の成功体験に引っ張られて自分たちの価値観を押し付けてしまったりしているうちは、10年単位で成功したと言えるものを創出することは難しいです。

丸亀製麺には、理念や想いが明確にありました。「お客さまの喜びのために価値を創造し、変化・成長を続けていく」というベースの理念があり、目の前でうどんをつくり、実演し、できたてを提供する。手間暇かけることを惜しまず、お客さまが喜ぶことを体験価値として提供し続けているのです。

「日本食はおいしい」という前提では失敗する

効率を求める昨今の風潮とは逆の発想かもしれませんが、その理念や想いが人を惹きつける要因になっているのでしょう。この考えは海外展開でも重要で、コンセプトや戦略を考えていくうえでの軸になります。うどんを売るのではなく、「製麺所としての体験価値を売っている」そうなので、それはどの地域や国でも損なってはいけないと感じました。

では、日本で大切にしてきたものをそのまま提供すればいいのかというと、そうではないケースが多いのも事実です。ハイエンドを狙ったサービスですと、日本そのままのクオリティや体験価値が求められるケースもありますが、丸亀製麺の狙うマーケットは日常食であり、地域の大衆文化に溶け込むことが求められます。

ワイキキ店「UDON」のメニュー

私が見てきたいちばんの失敗パターンは、「日本の食はおいしく、ハワイの食はおいしくない。だから、日本の食をそのまま提供すれば成功する」という考え方です。このような考えで展開した事業者は、ほとんどが数年もたずに撤退しました。この現状を粟田社長に伝えると、こう即答しました。

「味は食文化や嗜好があるので、現地の人の意見を聞きながら考えよう」

生意気かもしれませんが、「さすがだな」と思いました。同じ助言をしても、「大丈夫だよ。日本クオリティを出せば流行るから」と言って聞く耳をもたない人がほとんどでしたから。