部下の能力を引き出すにはどうすればいいのか。ハーバード・ビジネススクールのフランシス・フライ教授と起業家のアン・モリス氏の共著『変化を起こすリーダーはまず信頼を構築する 生き残る組織に変えるリーダーシップ』(日本能率協会マネジメントセンター)より、一部を紹介する――。
超音波で本物の水蒸気を吹き上げて走るトミーの「サウンドスチームきかんしゃトーマス」
写真提供=共同通信社

部下には指示を出すより、任せたほうがいい

スピードを妨げる多くの障害は、つまるところ比較的単純な組織の物理法則に帰着する。決断を要するあらゆる事柄が、一点を通って流れていくような決定権の文化を築いた場合、スピードは非常に直接的な形で犠牲になる。その小さな穴をほんのわずかにでも広げれば(つまりは、重要な意思決定者を1人から2人に増やすという場合もあるだろう)、組織の「戦闘のリズム」の速度を劇的に上げられる。

より野心的な言いかたをしよう。あなたの会社のスピードを上げる最速の方法は、より多くの決定ができるよう、より多くの人たちに権限を与えることだ。かなりの危険があったり、指揮系統が不可欠であったりする業界(例えば、医療業界)では常識にそぐわないように感じられるかもしれないが、もっとも危険が高いときこそ、あなたがいなくても正しい決断を下せるよう、必要な情報を他の人たちがもっていることが、もっとも重要なことなのだ。動きが緩慢で予測可能な状況であるなら、皆に指示を出せばいい。ただ、それ以外の状況であれば、皆に思考方法を教えるのがより確実だ。

米軍最高幹部がみずから権力を手放したワケ

そう考えると、エンパワメント・リーダーシップについての非常に説得力のある考えのいくつかが、戦争の不透明さから生まれたのも当然である。統合参謀本部の元議長、マーティン・デンプシー大将は、アメリカ陸軍をより速く、より良くしようと試みた際、まず権力を手放すことから始めた。デンプシーはこの新たな方法を「ミッション・コマンド」と呼んで、陸軍のリーダーシップのビジョンを明確に示した。スピードがこれまで以上に重要となり、状況が絶えず変化している現代の戦場において、自ら決断を下す方法を部下に教えることに重点を置いた方法だ

デンプシーの世界観にはまだ到達できそうにないという人は、「とても良い計画」に何か新たな試みをもたらすことを考えてみよう。昨日の熱心な取り組みで、厳密で楽観的な改革戦略がはっきりし、自分がなぜそれをおこなっているのかを説明できるようになった。今度は、実行にあたってどの決断、つまり、どの部分に自分が必要ないかをチームに知らせよう。

これはまた、意思決定についてより広く話し合うのに絶好の機会でもある。あなたの支えとなる豊富な決定のフレームワークを活用しよう。その多くは、自分が関与したい、あるいは相談してほしい、あるいは事後報告してほしいのがどんな場合なのかをはっきりと示せるよう後押ししてくれるはずだ。フレームワークをひとつ選び、そして、お察しのとおり、賢明な実験をおこなおう。

*デンプシーが構築したリーダーシップ・モデルは、19世紀のプロイセンの優れた陸軍元帥、大モルトケと呼ばれるヘルムート・フォン・モルトケの考えかたに基づいている。