上司の許可なしで「2000ドル(約30万円)」まで使っていい

今日は、権限委譲(エンパワメント)の経営、分権的意思決定を可能にする構造改革にもぜひ乗り出してもらいたい。私たちが好きな例は、リッツ・カールトンの方針、宿泊客の課題を自ら解決するために、マネジャーからの面倒な承認なしに1件につき2000ドルまで費やせる権限を全従業員に与える方針だ。

創業者のホルスト・シュルツは、この方針について尋ねられた際に次のように語った。「何年も前にこのやりかたを取り入れたときには、リッツ・カールトン・フランチャイズのオーナーたちから訴えるぞと脅されたよ」シュルツは笑いをこらえながら、ほとんどの件は2000ドルという最高額にはほど遠い金額で解決できていると指摘した。「皿に盛ったクッキーや昼食程度で十分なんだ」

経験上、多くのリーダーは、権限委譲を感情レベルで受け入れるか抵抗するかのどちらかで、その論理についてとことんまで考え抜いていない。シュルツが、懐疑的なフランチャイズのオーナーについて語っているのはそういうことだ。「仮に上限の2000ドルまで使うことになったとしても、そういった宿泊客は生活に20万ドルは費やすような人たちだ。つまり、私たちが気にかけるべき唯一の ―唯一の― ことは、彼らにこれからも宿泊客でいてもらうことなんだ」これは、シュルツが生み出したこのやりかたが口コミで話題になるよりも前の話だ。

ザ・リッツ・カールトン・ミレニア シンガポールのデラックスルーム
ザ・リッツ・カールトン・ミレニア シンガポールのデラックスルーム(写真=Own work/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons

宿泊客のおもちゃを「救出」した話の教訓

リッツ・カールトンのある従業員が、宿泊客の息子の「きかんしゃトーマス」の玩具を「救出」した話は、アーンドメディア(訳注:第三者であるユーザーが情報を発信する媒体)で途方もない価値を生み出した。

家族旅行でリッツ・カールトンに滞在していたその子どもがトーマスの玩具をなくしてしまったため、発想豊かで積極的な従業員は玩具店に行って代わりのものを購入した(推定費用:16ドル99セント)。それから、ホテルの様々な場所でトーマスの写真を撮った。厨房で下ごしらえしたり、爽やかな朝のひと泳ぎを楽しんでいる写真だ。そして、トーマスが姿を消した理由を説明する手紙を添えて、悲しみに暮れていた若き所有者のもとにトーマスを送り返したのだ。

この魔法のような出来事が可能となったのも、従業員への権限委譲という、同社のブランドイメージに合った経営改革と、その資金を出すための予算項目があったためだ。