マックのハンバーガーは「世界一おいしい」わけではない
そう思ってファストフード業界を眺めてみると、そこには別の論理が働いていることがわかります。サイゼリヤは「おいしいから、これ食べて」が基本で、商品軸の会社だという話はすでに何度かしましたが、最大手のマクドナルドのハンバーガーは、決しておいしいから選ばれているわけではないのです。
世の中には、もっと肉厚で食べごたえのあるハンバーガーが山ほどあります。野菜もシャキシャキで、チーズもとろりと濃厚で、バンズの食感も楽しめるようなハンバーガーを、みなさんも食べたことがあるはずです。にもかかわらず、世界でいちばん売れているのは、マクドナルドのハンバーガーです。これは疑いようのない事実です。
味にうるさいと言われている日本でも事情はまったく同じで、たとえば、そば粉よりも小麦粉の配分が多いような立ち食いそばチェーンのほうが、そば粉十割の手打ちそばの個人店より、はるかに世の中に受け入れられています。そば粉だから、手打ちだから、おいしいから選ばれているのではないのです。いつでもどこでも同じ味を安く味わえる安心感のほうが、多くの人にとってお店選びの基準になっていることは明らかです。
定番商品に隠された細かな工夫
では、失礼ながら「おいしいから」という理由で選ばれているわけではないマクドナルドのハンバーガーが売れる秘密はどこにあるのか。
私もいろいろ研究してみたのですが、たとえば、あのサイズ。どこから食べても、一口目で必ずピクルスがちょっと口に入るようになっている。そういう大きさの比率になっているのです。
さらに、バンズに粘りがないから、咀嚼すると、肉と一緒になくなる。だから、ハンバーガーを食べた、という印象になるのです。バンズにもっと歯ごたえがあると、肉が先になくなりパンだけが最後に残るため、パンを食べたという感覚が強すぎて、肉の印象が残りにくい。そういう細かなところまで計算され尽くしているわけです。
定番商品の背後には、そういう細かな、ビックリするような仕掛けが施されているのです。