なぜ、サイゼリヤは高いリピート率を誇るのか。そこには"コスパ最強"だけでは説明できない極意がある。サイゼリヤ元社長の堀埜一成氏は「サイゼリヤは、おいしすぎる料理を出さない。カギとなるのは、味の設計だ」という。一体どういうことか。学びのサイト「プレジデントオンラインアカデミー」の好評連載より、第1話をお届けします――。

※本稿は、プレジデントオンラインアカデミーの連載『フレームワークは最強の武器になる!思考とアイデアを磨く技術』の第1話を再編集したものです。

サイゼリヤのロゴ
写真:西村尚己/アフロ
サイゼリヤ(2019年1月25日撮影)

直感だけでは、戦略を説明することはできない

みなさん、はじめまして。堀埜一成と申します。

私は京都大学大学院農学研究科で学び、技術者として味の素に入社。食品企業を選んだのは、大変な食いしん坊でもあったからですが、縁があって43歳のとき、イタリアンレストランチェーンである「サイゼリヤ」に転職。2009年からの13年間は、代表取締役社長として多くの意思決定に関わってまいりました。

なかには、コロナ禍での「ふざけんなよ」という発言が大きくニュースで取り上げられたことで、私のことを記憶している方もいるでしょう。

「ランチがどうのこうのと言われました。ふざけんなよ」

これは、2021年の決算会見の席で、緊急事態宣言の再発令決定を受け、当時の西村康稔経済再生担当大臣が「ランチ自粛」を口にしたことに対しての私の発言です。

報道では「怒り狂っている」とされていましたが、実際には「言ったら、おもしろいかな」と、関西人ならではのノリで発した言葉。新型コロナウイルスの影響を受けて、社内に悲壮感が漂っていたのは確かですが、私自身はむしろ、その状況を「チャンス」と捉えていたのです。

世の中には失敗というものは存在しません。起こったことは、すべてがデータとなるからです。厳しい状況も、悪い結果も、要は人間の捉え方次第。いまの状況、いまの結果を、次にどう生かすかを考えなければなりませんし、それを考えるのが経営です。

さらに、誤解を恐れずにいえば、経営というのは「思いつき」と「思い切り」がすべてです。MBA(経営学修士)をもっていたとしても、ロジックだけで経営判断や意思決定を行っている経営者は皆無でしょう。

過去の事例を見ても、おそらく新しい価値を生み出す経営者ほど、最初に直感や閃きがあって、それに基づいて動いている。私のサイゼリヤへの入社の決め手となったのは、創業者である正垣泰彦との出会いですが、彼もまた、どちらかというと勘で動くタイプの経営者です。

一方で、技術者として企業に長く勤め、新たな企業風土と文化の下で社長となった私のやり方はどのようなものであったか。

最初にあるのは、もちろん直感です。しかし、直感だけでは、戦略を説明することはできない。ステークホルダーである株主を納得させることもできませんし、社員に方向性を伝えることもできません。

だからこそ、ロジックやフレームワークを用いて確認し、これなら進んでもよいという説得材料を見つけるのです。もちろん100%の根拠などあり得ませんし、根拠といっても、しょせんは理論値です。それでも根拠があれば、経営に思い切りが出ます。