最初に断っておくと、「こうすれば権力を握れる」などという都合のいいノウハウは、この世に存在しない。論語にも「死生命有り、富貴天に在り」とあるように、偉くなるかどうかは天の配剤なのである。日本経済新聞に連載されている「私の履歴書」を読んでも、ほとんどの経営者は成功の要因に、運のよさを挙げているではないか。だから、出世術の本に書かれているようなことは、すべて眉唾だと思ったほうがいいだろう。
私自身は、権力を手にしたいと思ったことなど、これまで一度もない。ただし、若いころは、結果として偉くならなければこの会社にいる意味はないという気持ちを常にもっていた。そして、それは当然働き方に表れる。与えられた仕事に一生懸命取り組むのはもちろんだが、さらに一歩進んで、自分が経営者ならどうするかまで考えるようにしてきた。普段からそういう訓練をしていなければ、いざ偉くなったときに、思う存分力を発揮することができないからだ。
逆に、絶対にやらなかったのは上司のご機嫌取りとゴマすりだ。仮にそれで直属の上司から引き上げられたとしても、会社の将来をきちんと考えているまともな経営者が、そんな社員を組織の大事なポジションに起用するはずがない。そう考えると、権力志向のイエスマンというのは、実は最も権力から遠いところにいるといえそうだ。また、社内で権力争いが横行しているようなら、その会社の将来は限りなく暗いといっておこう。