大切なのは自分で決めること

――逆に地域みらい留学に合わないという子はいますか。

【岩本】残念ながら、なかには途中で留学をやめる子もいます。ひとつは先天的な疾患など持病があるケースですね。地域みらい留学をやっている地域には、診療所が町にひとつしかなかったり、最先端の医療が受けにくいところがあります。そういう子は、医療が充実しているエリアを選ぶのが大事だと思います。

――発達障害などのケースはどうですか。いまADHDとかアスペルガー症候群の子どもの教育で悩んでいる親御さんもいますが。

【岩本】状態によると思いますけど、それでうまくいかなかったというケースも聞いたことはあります。学校よりも、寮生活で音が気になって眠れないとか。集団生活にうまく適応できないケースですね。

そういった特別な事情を抱えているケースは別として、僕が見ていて難しいと感じるのは、「親に行かされた」と思っている子です。

もちろん、子どもたちが最初に地域みらい留学を知るきっかけの多くは、親や学校のすすめなんです。「こういうのがあるから説明会に行ってみたら」「オンラインでもやっているよ」というふうに、大人の後押しがあることがほとんどです。選択肢を提供して、見学するところまでは大人が導いてあげるのがいいと思います。

ただ、最後は本人が決めてほしい。実際にそこへ行って3年間を過ごすのは、お父さんでもお母さんでもなく本人ですからね。自分で決めないと後悔します。少なくとも本人が「自分で決めた」と思えるのが大切。

一方で、親から「あなたにはここしかない」「ここへ行きなさい」と言われて来た場合、「行かされた」という思いが残って、留学してもうまくいかないことがある。

当然、留学したからといって楽しいことばかりじゃないわけです。新しい土地、新しい学校に慣れるまでは大変なこともあります。自分で洗濯したり掃除したり、生活面で乗り越えなくちゃいけないこともある。そのとき、「自分で決めたんだから」と思って乗り越えるのか、「こんなはずじゃなかった」と親のせいにして逃げるのか。自分で決めて一歩踏み出した子には、自己決定感があります。そのあるなしは、ものすごく大きいですね。

「地域みらい留学」合同学校説明会の様子
写真提供=地域・教育魅力化プラットフォーム
「地域みらい留学」合同学校説明会の様子

都市部と田舎で異なる「偏差値」の意味

――地域でさまざまな活動をしたり、自分たちでイベントを企画したりすることで、これからの時代に必要な探究型、課題解決型の学びができる。それはすばらしいことだと思います。一方で、いわゆる受験勉強の面ではどうなんでしょう? 東大に進学した鈴木元太くんのような例もありますけど、参画している高校の多くは偏差値でいえば高くはありませんよね。不安を持つ親も多いと思うんですが。

【岩本】まずわかってもらいたいのが、学校の偏差値に対する考え方が、都市部と地域みらい留学をやっている地方では大きく違うということです。

都市部の場合、家から通える学校が何十校もあって、偏差値で輪切りになっていることが多い。合格ラインが偏差値で示されて、それぞれの学力に応じて入れる高校を選びます。

ところが、地域みらい留学をやっている地域では、家から通える高校はひとつかふたつというケースがほとんどです。たとえば80人の定員に対して、地元から入る子どもたちは60人だったりします。つまり、高校に入るときに競争はなく、地元の子はほぼ全入なわけです。都会の高校のように偏差値50の学校に偏差値50前後の子が集まっているわけではないんですね。偏差値30から70まで、いろんな学力の子がまばらにいるんですよ。

都市部で生まれ育った人にはわかりにくいと思うんですが、そういう状況が前提としてあります。そのうえで進学実績を見ると、地域みらい留学をやっている高校から国公立や難関大学に行く子も年に数人います。一方で専門学校に行く子もいるし、就職したり、自衛隊に入ったり、進路はさまざまです。それは多様な子どもたちが集まっているからなんです。

都会だと国公立、難関大学に何十人入ったという数字で学校のレベルを測ると思うんですけど、地域みらい留学の高校の場合、それだけでは測れないんです。