詐欺の被害者は高齢者が多いが、若い世代にも少なくない。時計の買い取り・販売会社を経営していた30代男性は昨夏、突然逮捕され、その後、懲役3年(執行猶予5年)の有罪判決を受けた。日々、真面目に働いていたのになぜなのか。ジャーナリストの多田文明さんが、罪のない市井の善人をコマとして使う詐欺集団の恐るべき仕組みを解説する――。

“無実”なのに…突然、刑事にきて逮捕され懲役3年の有罪判決

詐欺の魔の手は、いつ私たちの身近に迫ってくるかわかりません。被害者には高齢者が多いイメージがありますが、ビジネスパーソンなど若い世代も餌食となる事例が後を絶ちません。

柴田さん(仮名・30代男性)は昨年5月に急転直下の事態に見舞われました。突然、自宅に刑事がきて、手錠され逮捕されたのです。なぜ、自分が? 何をしたというのか! 抗議しても一切聞き入れられません。

手錠をかけられた手で、顔を覆う男性
写真=iStock.com/undefined undefined
※写真はイメージです

最終的に懲役3年(執行猶予5年)の有罪判決を受けます。執行猶予付きとはいえ、有罪です。これまで真面目に働き、コツコツ築いてきた人生は完全に破壊されました。いったいどんな犯罪をしたというのでしょうか。

柴田さんはこう振り返ります。

「警察がきた時には、何のことかわからないまま逮捕されましたが、後で自分が知らぬうちにどんな犯罪に加担していたかがわかりました。実は僕は特殊詐欺の資金洗浄にかかわり、犯罪収益金75万円を得たというのです。特殊詐欺の『受け子』や『出し子』は知っていましたが、まさか僕自身が『出し子』になってしまうとは……」

金銭的な代償は、罰金など700万円。“自分が得た”という75万円の10倍近くのお金を払わなければならなくなりました。もちろん、得たといっても本人にその自覚はありませんでした。自分が知らないうちに、マネーロンダリングの歯車となっていたのです。資金洗浄? 犯罪収益金? いったい何が起きたのでしょうか。

柴田さんの仕事は、時計の買取り・販売会社の経営。以前から取引のあった香港で古物商をしている石井(仮名・40代男性)という人物から、ある時、日本に住む親しい友人を介して依頼されます。

「石井さんがビットコインを円に換えてほしいそうなんだ」

通常の業務内容ではなく乗り気でなかったものの、石井からは1年以上も継続して注文があり支払いもきっちりしていた。いわば、上顧客としての信用もあり、むげに断れなかったのです。

ところが柴田さんの元に送金されたビットコインは、特殊詐欺で集められたものでした。それを知らずに円に換えて、石井やその部下に現金で手渡ししていたのです。