通常の商取引のなかに犯罪収益が入り込む

柴田さんは確かに迂闊でしたし、いくつかの重大な判断ミスを犯しています。ただ、石井といつも通りの通常商取引の中に犯罪収益金が潜んでいたことに気づくことができなかったことは、不運な面もあるように感じます。

「ビットコインを円に換える間も、これまで通りの通常の時計の販売もしていました。石井との商売上のやり取りは5000件くらいあって、そのうち、今回、犯罪収益として立件されたのは9件ほどです。リアルな取引のなかに入っていたので、こちらとしてよく分からない状況でした」

まさに不正な行為を通常の売買のなかに紛れ込ませてくる。詐欺グループの巧妙さもみえてきます。

詐欺に気づくポイントはなかったのか?

柴田さんに「犯罪に手を染めているかもしれないと気づくポイントがなかったのか?」を尋ねると「一つあります」と答えます。

「実は、暗号資産での取引を始めた頃、取引所のアカウントが急に止まったことがあるんです。しかし止まった理由は(暗号資産の取引所からは)詳しくは教えてもらえませんででた。当時は、ビットコインで時計を売買する取引も結構ありましたから。もちろん、その原因を調べるために、石井にも、送られてきたのは何のお金かと聞きました。すると『カジノの収益金だよ』と言われて、それを信じてしまいました」(柴田さん)

取引所のアカウントが止まるというのは、よほどのことだと思い、犯罪行為の可能性を必ず考える必要があります。柴田さんは「気をつける点としては、やっぱり良好な人間関係であっても、お金の絡む話の時には、必ず疑うことは必要でした」と悔やみます。

これまで柴田さんは顧客との信用関係を第一に会社経営をしてきました。犯罪グループはそこを突いてきたのです。しかし詐欺の手足としての歯車になってしまうと、たとえ数十万円しか手にしていなくても、刑事罰という大きな代償を受けることになります。

今、身の回りには詐欺などの犯罪が存在している。少しでも「おかしい」と思った時には、必ず誰かに相談して、立ち止まることが必要です。

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