「日本的経営は社員を幸福にする」――。誰もが信じて疑わない「常識」だが、図をご覧いただきたい。実は日本人は会社が大嫌いだったのである。

そこそこやっていくのでは誰からも評価されない。哲学者のヘーゲルは、人はつねに他者の承認を求めて生きている、といっている。人は評価されてこそ幸福感が得られるのであり、誰からも認められなければ、どれほどお金があっても幸福ではないのだ。

個の話に偏っているようだが、個を磨くことなしに、会社の成長はないのではないか。市場原理主義は非難され、古きよき雇用制度による日本的経営を正しいとする声もあるが、前述のように、それが日本の会社の窮屈さを生み出している。市場原理主義の米国より、社員の満足感が低いという驚きの調査結果もあり、それは明らかだ。

世間から隔離された会社組織の中で行われる日本式ゲームでは、せっかくの評判も外の世界に広がらない。高度化した知識社会のスペシャリストやクリエーティブクラスは、市場で高い評価を獲得することで報酬を得る。

たとえば映画製作においては、優れた人材に次々と声がかかり、高額な報酬が提示される。企業が成長するにはこのような映画型の評価システムが必要であり、日本の会社もそう変わっていくはずである。今は過渡期だろう。

だとすれば個の能力を磨く必要がある。会社組織の中から退出する道もあるが、社内から評判を得るだけでなく、業界内に評判を広げる、という選択肢もある。マイケル・ジャクソンにはなれなくても、ニッチジャンルのスターになることはできる。自分マーケティングである。それが実現できる社員が会社内に増えていけば、それは会社の力となって利益を生み出す。

少し辛口になるが、自分に対する他者の評価が妥当か(過剰評価されていないか)も、分析しておきたい。

作家 橘 玲
1959年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。2002年に小説家デビュー。近著に『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』。
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(構成=高橋晴美)