根回しの効用を問い直す

インパクトの大きいことを相手に伝えるとき、みなさんは事前に根回しをしているでしょうか。

関係者間で事前に調整を済ませておく根回しは、日本の企業文化の一つです。ただ、社内政治と結びついてダーティなイメージで受け止められる場合が多く、最近では根回し不要論を主張する人も増えています。

しかし、根回しの目的は、単なる意見調整ではありません。根回しの目的は、《インパクトを和らげる》コトです。

根回し抜きで物事を進めれば、突然の変化についていけずに感情的なトラブルに発展することもあります。たとえば人事異動や事業の統廃合などはインパクトが大きく、根回しなしでやると現場が混乱します。それを防ぐために事前にコミュニケーションを取り、相手の戸惑いや不安を最小限にとどめるわけです。

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根回しとは

もともと根回しは、樹木を植え替えるときに使われるガーデニング用語です。

成長した樹木を別の場所に移すとき、何の工夫もなくそのまま移植すると、枯れる確率が高くなります。樹木は、根の先に生えている細根から水や養分を吸い上げます。しかし移植時には、根の先端部を切って運ばざるを得ません。その結果、水や養分を吸わない根元の固い部分しか残らず、移植して水をあげても枯れてしまうのです。

では、植木屋さんはどのような工夫をしているのか。

樹木を移植する前に、まず根元の太い根の一部分の皮をぐるりと剥きます(環状剥皮)。ふたたび土中に埋めて放置すると、剥いた部分から細根が生えてきます。これを何度か繰り返すと、根元にたくさんの細根が生えてきて移植に耐えられるようになります。この一連の作業を根回しといいます。

この造園技術の用語が転じて、いつしかビジネスでも根回しという表現が使われるようになりました。