ネットとリアルのバランスを棚卸しする
インターネットが普及し始めたころは、ネットは社会の一部に過ぎませんでした。ネットはあくまでも社会を補完する存在であり、社会に存在し得ないものはネットの中にも存在しませんでした。
ところがいまやネットは、その中だけで完結できる新しい社会をつくりつつあります。かつての社会は「リアル」と呼ばれて、ネット社会と区別されるようになりました。私たちはいまやリアルとネットというパラレルな2つの社会を、行ったり来たりしながら生活している状況です。
2つの社会が並行すると、自分のやりたいことをリアルで実現する必然性が薄くなっていきます。リアルだとリスクがともなうようなことは、ネットでやればいいと考える人たちもいるかもしれません。ネットで競争して、ネットで批判して、ネットでアピールして、ネットで友だちをつくる。それで満足感を得られます。
もちろんネット社会だからといって万能の神になることはできません。しかし、一定の匿名性があり、いつでもリセットが可能な状況が、私たちの背中を押してくれます。ネットでは、リアル以上に積極的になれます。そうやって経験値を積み上げていくにつれ、ますますネット社会の居心地が良くなってくるのです。
ただ、ネットへの依存は危険をはらんでいます。私たちが生きているのはリアルな世界です。ネットは《リアルを充実させる》ためにあるのであって、《ネットを充実させる》ためにリアルがあるのではありません。ネット社会に軸足を置いてしまうと、リアルで生きるスキルがどんどん低下していきます。
ネットとリアル。具体的には、リアルで困らないように足を下ろしたうえで、ネットを存分に活用する。そのバランスが肝心です。