伝え方より、コトバの変換に注意する
コミュニケーションがうまくいかないとき、私たちは情報の伝え方に問題があると考えがちです。
実際、伝達の手段によって混乱が起きるケースは多くありません。電話で話したコトバはきちんと相手の耳に伝わるし、メールに書いたモジはそのまま相手の元に届きます。仮に手段による混乱が起きても、その多くは技術的に解決可能です。
注意したいのは「伝達」より「変換」です。
私たちは自分の頭の中で考えていることをテレパシーで相手の頭の中に直接届けることはできません。人と人の間でやりとりされるのは、考えではなくコトバやモジです。モジは単なる記号であり、コトバは単なる信号です。
つまり私たちは自分の考えを、モジやコトバという共通のツールに置き換えて相手に伝達していることになります。
ミスが起こりやすいのは、頭の中をコトバに変換するときです。自分の考えをコトバに置き換えるプロセスで情報に歪みが生じて、間違ったカタチで相手に伝わってしまうのです。
相手が情報を受け取るときも同じです。翻訳がうまくいって自分の考えを過不足なくコトバにできても、相手がコトバを理解するときに歪みが生じると、こちらの意図が正しく伝わりません。そこでコミュニケーションのズレが起きるわけです。
コミュニケーションのズレは、時間のロスだけでなく感情にも悪影響を与えます。「自分はこういうつもりだった」、「いや、そういうニュアンスではなかった」という水掛け論は人間関係に軋轢を生み、精神的に摩耗します。
こうした擦れ違いが起きる原因を、伝達手段のせいにするのは早計です。
むしろ自分の意図が正しく伝わらない根本的な原因は、考えをコトバに置き換えるときの変換ミスにある可能性が高い。
ここを間違えると、ムダな努力を重ねることになります。