一般化するポップアップショップ

今回の石川県の試みは、こうした継続的な駅ナカ需要の上に成り立つものであるが、そこにはもう一つ重要な要素がある。

「ポップアップストア」という店舗形態だ。近年、この商業形態が流行している。

そもそも「ポップアップストア」とは、特定の期間限定で仮設的に作られるショップだ。特にコロナ禍でのリアル店舗の不況を受けて、実験的に出店できるこの形態が流行し、最近新しくオープンした商業施設では、必ずといってもよいほど、ポップアップストア用のテナントが入っている。

例えば、大きな話題を呼んでいるのが、今年の4月にリニューアルオープン予定の渋谷TSUTAYAである。従来のレンタル事業から大きく路線変更をして、ポップアップストアを多く取り入れる

企業側や自治体側にとってみれば、短期かつ低予算での出店が可能だから実験的な試みや、顧客データの測定が可能。一方、消費者側にとってみれば、「期間限定」ということが訴求力となり、なおかつ同じ空間でも毎回異なるイベントを体験できるから、それだけ楽しみも増える。

とはいえ、ポップアップストアは「流行している」というより、「一般化した」という言い方のほうが適切かもしれない。商業誌「モダンリテール」は2024年のトレンドとして「ポップアップストア」は「out」(つまり、流行でなくなっていくということ)と予測する。もちろん、これはすたれているという意味ではない。

特にコロナ禍以後、日本だけでなく欧米諸国を含めて、ポップアップストア市場は活況を呈してきた。ちなみに2022年のアメリカではその市場規模は約7兆円にも及ぶという。日本国内におけるポップアップストアの場合、右肩上がりの活況期を経て、適正な規模に落ち着き一般化してきたと考えられる。

今回の石川県の取り組みも、アンテナショップがリニューアルするまでの施策として、自然な発想として「ポップアップストア」という選択肢が考えられたのだろう。それは、この商業形態が一般化してきたことを表しているのである。

ショップに掲げられた看板
筆者撮影
ショップに掲げられた看板

「街のスキマ」を探すトレンド

同時に、これは私見だが、近年の商業においては「街のスキマ」を探し、そこへ巧妙に出店する手法が進んできている。

「居抜き」出店はその代表例だ。2024年2月、ハンバーガーチェーンの「バーガーキング」が「バーガーキングを増やそう」というプロジェクトを打ち出した。

これは、消費者の地元にある空き物件で、バーガーキングが入ってほしいと思う物件をバーガーキングに送るというもの。2月5日の募集初日に約2万件もの投稿が来たという。バーガーキングはこれまでも意欲的に居抜き出店を行ってきたが、その延長線上で、消費者に「街のスキマ」ともいえる空き物件を探してもらう手法に出たのだ。

コンビニジムとして知られる「チョコザップ」も、居抜き出店で出店攻勢をかけている。2023年11月までに1160店舗までに増加。その多くが居抜き店舗である。

2024年2月7日にはフジテレビ朝のニュース番組「めざまし8」が「居抜き」物件の特集。それが商業のトレンドになっていることを象徴的に表すこととなった。

こうした「居抜き」のトレンドの出発点は1990年代。その先駆け的な存在が、ディスカウント・ストア「ドン・キホーテ」や新古書店「ブックオフ」だった。これらは郊外にある閉店したさまざまな店舗を居抜く形で出店を進めてきた。こうした先駆的な存在の手法を学ぶ形で、近年では居抜きでの出店が増えている。

今回開催された石川県のポップアップストアもまた、駅の中の空きスペースを活用して出店されたもので、やはり「街のスキマ」を見つけ出して、上手く出店を進めている。近年流行する「街のスキマ」トレンドにも乗る形で、今回の石川県の取り組みはあったと見ることができるのだ。

以上、石川県のポップアップストアについて見てきた。

① 駅ナカ需要の継続的な増加
② ポップアップストアの流行
③ 「街のスキマ」を見つけるトレンド

という3つが合流する地点に、ちょうど今回の被災地・石川の取り組みがあったことがわかる。今後も、こうしたタイプのアンテナショップが増えるのかもしれない。

なお、石川のポップアップストアは2月25日まで継続的に都内、およびその近郊で行われる。震災復興支援も兼ねてぜひ、訪れてみてはいかがだろうか。

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