笠置シヅ子をモデルにした「ブギウギ」(NHK)のヒロイン・スズ子。ドラマではスズ子と年下の恋人・愛助が結婚しようとするものの、スズ子は愛助の母から「歌手を辞めるなら」と結婚の条件を出され、愛助はそれに反発する。笠置の場合はどうだったのか。朝ドラに詳しいライターの田幸和歌子さんは「笠置の自伝によると、愛助のモデルになった男性本人が笠置に仕事を辞めるように迫ったようだ」という――。
映画『銀座カンカン娘』の笠置シヅ子(写真=新東宝/PD-Japan-film/Wikimedia Commons)
映画『銀座カンカン娘』の笠置シヅ子(写真=新東宝/PD-Japan-film/Wikimedia Commons

「ブギウギ」では「結婚か歌手か」の選択を迫られる

朝ドラ「ブギウギ」第17週「ほんまに離れとうない」では、福来スズ子(趣里)と村山愛助(水上恒司)の元に村山興業の社長秘書室長・矢崎(三浦誠己)が現れ、そろそろ結婚してはどうかと提案する。ただし、愛助の母であり村山興業の社長である村山トミ(小雪)からの伝言として提示された条件は、スズ子が歌手をやめることだった。

結婚か歌手か――スズ子がこの二択を迫られる展開自体は、スズ子のモデルである笠置シヅ子が経験したことと同じ。しかし、その実情と、受ける印象は、ドラマと史実では少々異なっている。

ドラマでは、スズ子ファンの愛助は「福来さんが歌手をやめるやなんてことは考えてまへん!」と突っぱね、二人を応援したい坂口(黒田有)がトミを説得するため、大阪に向かう。

一方、スズ子が作曲家の羽鳥善一(草彅剛)に相談に行くと、「君が歌手をやめるなんて、僕が音楽をやめるようなもんだよ!」と猛反対。その傍らで妻・麻里(市川実和子)は、「どうしてスズ子さんだけがそんなに残酷な選択を強いられなければならないの?」「がまんするのはいつも女でしょ。おかしいわよ、そんなの」とトミの横暴に対して苛立ちを見せる。

恋人はスズ子の大ファンで仕事を続けることを求めるが…

スズ子は愛助と一緒になるのであれば歌手をやめても良いのではないかと考えるが、歌手を続けさせようとマネージャー・山下(近藤芳正)は奔走。愛助はついに自分がトミを説得すると決意を固める。

ドラマでは、村山興業の坂口も、トミの元部下で長い付き合いの山下も、みんながスズ子の歌手活動継続を後押し、麻里もスズ子の、そして女性の思いを代弁。多くの女性視聴者にとっては留飲の下がる展開となっている。何より大きいのは、愛助がスズ子の才能を愛し、歌手を続けてほしいと願っていること。愛息である自分が母親のトミを説得すれば……と言い出すタイミングが「遅すぎる!」とツッコみたくなる面はあるにせよ、「まあ、愛助は若いしな」「お母ちゃん、ものすごく怖いんだろうし」と、理解できないわけではない。

ところが、笠置シヅ子の伝記『歌う自画像:私のブギウギ傳記』(1948年、北斗出版社)を読むと、愛助のモデルとなった吉本エイスケの言動は、現代の私たちからはズルく見えるところが多々ある。