私たちの生活に密接に関連する、ドル・円レート。日本とアメリカの経済状況や発表される統計データ、金融当局の発言、投資家の思惑などによって、その値は小刻みに動き続ける。2022年初めには1ドル115円程度だったが、同年9月は143円、10月は147円と円安が加速。2023年となる前後にいったん130円台まで戻したが、今秋以降は140円台後半と再び円安化した。経営コンサルタントの小宮一慶さんが2024年の為替の動向を予測しつつ、大谷翔平選手の契約に関連して1円の上げ下げのインパクトを語る――。
ドルと円で綱引き
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日本経済とLA大谷翔平に影響をもたらすドル・円レート

このところドル・円レートが円高方向に触れました。150円程度の円安だったが、日銀総裁の利上げを示唆する発言を受けて、一時は141円をつけるほどに円高方向に進みました。

12月8日に発表だった米国の雇用統計が予想より良かったため、米国の早期利下げ予想が後退したこともあり、この原稿を書いている時点(10日)では、145円前後です。

円安もあり、日本のインフレは思ったように下がらず、一方、円安メリットを生かした外国人観光客が、コロナ明けの勢いに乗って急増しました。

この間、為替レートは日本経済にも大きな影響をもたらしました。この先、どれくらいまで円は買われるのでしょうか。来る2024年の日本経済や米国経済の状況を予想するとともに、円レートの行方を探ってみましょう。

2023年初に130円まで買われた円

今後の円相場を考えてみましょう。

円相場を考える際には、日米の金利差を考える必要があります。図表1は2022年1月からのドル・円相場と、米国の3カ月物の相場です。米国の政策金利(1日だけ銀行間でお金を貸し借りする金利)にほぼ連動して動きます。

【図表】ドル・円相場と、米国の3カ月物の相場

米国では、2022年初にはほぼゼロだった政策金利が、インフレの進展とともに、どんどん利上げが繰り返され、この原稿を書いている時点では5.25%~5.5%に設定されています。それに合わせて、3カ月物の金利も上昇しました。

一方、日本の短期金利はこの間、ずっとゼロ近辺でした。ということは、米金利が上昇する分だけ日米金利差が広がるということです。米金利そのものが日米の金利差と言っていいでしょう。それにほぼ連動するように、円安が進んだと言えます。

図表1にあるように2022年初めには1ドル115円程度だった為替相場は、米金利が3%となった9月には143円、4%となった10月には147円まで円安が加速しました。

その後は、2023年となる前後には、いったん、130円台まで戻しています。1月には130円です。この間も日米金利差は広がっていますが、なぜ戻したのか。

皆さんは覚えているでしょうか。この頃は、米国の一部の銀行の危機がささやかれていたころです。そして、シリコンバレーバンクなどが実際に破綻しました。破綻の原因は、急速に米金利が上がったため、保有している米国債などの債券価格が急激に下落し、大きな含み損を抱えたためです。

米国の中央銀行であるFRBや財務省は懸命に危機から脱する手段を講じ、大規模な金融危機までは至りませんでしたが、それでも金融市場に動揺が走り、「安全通貨」や「避難通貨」と考えられた円が買われるということが起こったのです。

そのため、日米金利差が拡大しつつあったものの、一時130円まで円が買われました。つまり、金利差だけでなく、金融危機や戦争といった「イベント」が起こることも、為替相場を動かす要因ということです。

しかし、金融危機懸念が遠ざかるに従い、その後はふたたび日米金利差が意識され、円安に進むという構図になりました。