ジャニー喜多川氏による性加害を止められなかったのはなぜか。医師の和田秀樹さんは「日本では性犯罪や強制性交の被害届を出した人のうち、起訴されるのは100人に約1人とごく僅か。テレビドラマに登場する熱心に仕事する刑事や警察官は、警察の情報に頼って番組を作るテレビ局から警察への賄賂みたいなものだ。今回のジャニーズ事件然り、そうして性犯罪を見過ごしてきた構造をつくったテレビ局も共犯者として断罪されるべきである」という――。

※本稿は、和田秀樹『和田秀樹の老い方上手』(ワック)の一部を再編集したものです。

撮影スタジオのカメラ
写真=iStock.com/Georgiy Datsenko
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男に犯された男の心の傷は大きい

光GENJIやSMAP、嵐など、国民的男性アイドルを続々と世に送り出してきたジャニーズ事務所の創始者、ジャニー喜多川(2019年死去)による、所属の少年タレントたちへの長年にわたる性加害疑惑、いわゆる「ジャニーズ問題」を受けて、「児童虐待防止法」の改正が取りざたされています。

こういう話を聞くと、私ども精神科医はとても気になります。性的なトラウマというのはなかなか癒えるものではなく、一生引きずることもある。

しかも日本の場合、そういうトラウマを抱えた人を治療する医療機関はとても少ないうえ、そもそもトラウマには薬が効かないのに、カウンセリングが専門の医者は大学病院の精神科の教授には一人もいません。

しかも、アメリカの有名な調査によると、男にレイプされた女性がPTSD(心的外傷後ストレス障害)になる割合はおよそ45%であるのに対し、男による男性へのレイプの場合、被害者がPTSDになるケースは55%にも上るということです。

男に犯された男の心の傷の大きさというのは、その惨めさとか不条理さを思えば無理もないような気がします。だから、ジャニー喜多川のケースも、「おじいさんがちょっとイタズラしただけじゃないか」ということですまされる問題ではない。

たとえ加害者が故人であったとしても、事件の全貌を明らかにして、被害を受けた人たちへの心のケアが行われなければなりません。