「周りで見て見ぬふりをしていた大人たちも同罪に」

それはともかくとして、今回のジャニーズ問題と前後して、強制性交罪と言われるものが「不同意性交罪」に名称変更され、処罰の範囲が明確化されるなど、刑法改正の動きが進んでいます。

これは、ジャニー喜多川のしたことが法律上、「強制性交」にあたると認識されたからだと私は考えています。こうした動きについて、精神科医として少々意見を述べさせてもらいたいと思います。

「強制性交」というものは、2017年までは男が女性に無理やり性行為に及ぶことを指していたわけですが、今や相手が男女にかかわらず、性的な行為を相手の同意なく行うことも含まれるということになる。

とくに、立場の強い人間が弱い人間に対して――たとえば親が子に、学校の先生が生徒にわいせつな行為をするのも「強制性交に当たる」という考え方になったわけです。

精神科医として言わせてもらうなら、実際に性交まではしていなくても、そういう行為は人によっては大きなトラウマになる恐れがある。結果として相手に心の傷が残ってしまうような行為を「強制性交」と見なし、重い罪を課すことにはもろ手を挙げて賛成します。

もう一つ、元ジャニーズJr.の被害者が言っていたことですごく印象的だったのは、「加害者の罪を重くすることはもちろんだけれど、傍観者、つまり周りで見て見ぬふりをしていた大人たちも同罪にしてほしい」ということです。これは本当に正論だと思います。

「もう昔の話じゃないか」という問題ではない

たとえば集団レイプなどの場合だったら、周りで傍観している人間も性的虐待に加担していると見なされ、罪になるでしょう。それと同じことです。

アメリカでは児童虐待を目撃しながら通報を怠ると、重い罪に問われます。それは、児童虐待の被害者の人たちがその後、健全に育たない恐れがあり、場合によっては凶悪犯罪を引き起こす可能性があるという認識がアメリカ国民の間で共有されているということです。

だから、見て見ぬふりをする人たちも罪を問われるべきだというジャニーズ事件被害者たちの主張は傾聴に値すると私は思います。

もう一つ、今回の刑法改正の要点ですが、たとえば10歳の子供に性的虐待を行った場合、10年から15年の時効が、被害当時の10歳からではなく、18歳からカウントされることになりました。

私自身、15歳で集団レイプにあった女性の手記をもとに『私は絶対許さない』(2017年)という映画を作ったわけですが、その女性が、自分が集団レイプされたことを世の中に訴えることができたのは、事件から20年近くたった34歳の時まで待たねばなりませんでした。

部屋の床に座って泣いているセクハラを受けた女性
写真=iStock.com/Tero Vesalainen
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やはり、若い時に性被害を受けた人は20年ぐらい経たないと、あるいは40歳を過ぎたくらいでないと告白できないというのが実情です。だから、絶対に「もう昔の話じゃないか」というような問題ではありません。

ラジオの深夜放送を聞いていると、ある有名芸人が若い女性に無理やりにセックスをしたという話について「ネタが古すぎる」とその番組のパーソナリティの芸人が笑いながら話していましたが、これをもし被害者の女性が聞いたなら、そのパーソナリティは性的加害者といっていいほど、ほぼ間違いなく被害者のトラウマは大きくなります。

いくら昔のことでも、笑ってすませられるものではないことを肝に銘じるべきでしょう。