過去を消そうとしている人、抑え込もうとする人

男の過去が勲章とは限りません、あまり聞き出さないほうがいいですよ。

放送作家 永六輔えいろくすけ

人間は、意識的に過去を殺して生きていることもあります。

誰もが思い出を懐かしく抱き続けているとは限らず、ある部分を消してしまっている人も多いのです。

なぜなら、人はいつまでも昔のままではないからです。知人や親しかった人、部下や弟子、そして家族まで、昔とは違う人になっていきます。

その変わりようがあまりにもひどい時、私たちは、むしろ思い出などないほうがいいと考え、二度と思い出さないようにするのです。

自己原因による嫌な思い出も、消去の対象になります。

「なぜあんなことをしたのか」と恥じ、悔いる過去はまだいいのです。もっと激しい罪悪感を伴う過去が、多くの人にあります。

そういう過去を消そうとしている人、ちょっとでも頭をかすめると無理にでも抑え込もうとする人、決して他人に話さない人は少なくないのです。

松下幸之助「過去がつらかったから今がラク」

ある女性Aさんは、結婚して3人の娘をもうけました。ところが、実家の借金を背負ってしまい、婚家との関係も悪くなります。

結局、相談に乗ってもらっていた男性と深い仲になり、子供たちを捨てて家を出てしまいました。

20年後、娘の一人が母親であるAさんを探し出します。Aさんは田舎町のバーを経営しており、母娘は劇的な再会を果たすのです。

娘は、「なぜ自分たちを捨てたのだ」と責めました。しかし、Aさんは「話せない」の一点ばりです。二人は深夜まで議論し、ついには二度と会わないという結論になったのでした。母娘は決別したのです。

高田明和『孤独にならない老い方』(成美堂出版)
高田明和『孤独にならない老い方』(成美堂出版)

一見、極端な例に見えるかもしれません。しかし、よく考えれば、似たような話は、誰の身近にもあると思います。

「今つらいのは過去がラクだったからである。過去がつらいと今がラクである」と、パナソニック創業者の松下幸之助こうのすけさんは言っています。松下さんのように考えれば、悲惨な過去に対する苦痛が多少やわらぐのではないでしょうか。

また、私は、過去をノスタルジックに思い出せる人は幸せだと思っています。美しい記憶は、幸せを実体験しないと持てないからです。ノスタルジアは、かつて自分が幸せだった証拠であると思えば、人生が豊かになります。

記憶が時に映し出す美しかった光景。それが見られるだけで幸福だ。

年配者に必要なのは安らかな幸福感。過去と苦闘する必要はもうないのです。

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