12年6月8日に閣議了解された「がん対策推進基本計画」に明記された、とある数値目標が注目を集めている。10年の時点で19.5%あった成人の喫煙率を、22年度までに12%に引き下げるという部分だ(表参照)。
喫煙者を4割減らすというこの目標に熊本県議会が異を唱えた。
同月27日付で「国におけるたばこ政策に関する意見書」を賛成多数で可決。
「一律過度な数値目標の設定には大きな問題がある」などと削減目標の見直しを求め、野田佳彦首相・小宮山洋子厚生労働相宛に郵送した。
葉たばこ生産で全国一の熊本県だが、馬場成志・県議会議長は、声を上げているのはたばこ業界だけではないという。どういうことなのか。何に怒っているのか。議長を直撃した。
――数値目標についてどう思いますか?
馬場 今回の厚労省の方針や、内閣で決められたことは、受動喫煙を心配されている方々からすれば嬉しいことだと思いますが、こうした数値目標を立てて規制していくことには違和感があります。
以前とは違って、社会の風潮はどんどん禁煙の方向に向かっているし、喫煙者のマナーも受動喫煙をできるだけ防ぐために、ずいぶんよくなってきているのを実感しています。歩きながら吸う人もほとんど見なくなりました。
それでもイヤな思いをしている方がおられるとは承知していますが、たばこに限らず、嗜好品について数値目標を立てて規制するようなやり方は、我々がざっと調べた限りでも実例が見つかりません。
厚労省が決めたものが閣議了解され、パブリックコメントも取ったが、我々が聞いた範囲ではそれが反映された様子もない。「これはおかしいんじゃないか」という意思表示をさせていただきました。
――意見書を出したきっかけは?
馬場 県議会に請願書が上がってきたことです。県内でたばこを栽培、販売する方々の組合に加え、一般の飲食店、スナックや飲み屋関係、さらに旅館・ホテル業界と合計5つの組合の連名でした。
この基本計画が奨励されれば、先の12%に加え、飲食店に設けられた個別の数値目標(約7割減)を達成するために、必要以上に厳しい規制が導入され、杓子定規にそれが強要され、おのおののお店で分煙のための設備投資を強いられる――そんなゆゆしき事態がこれからエスカレートしていくのではないか。設備投資には300万円から500万円がかかる。そして、その負担に耐えられない多くのお店が廃業を余儀なくされるのではないか。彼らは皆、そこを心配しているんですよ。
売り上げが1億円も2億円もあるところなら大丈夫でしょうが、夫婦でぼちぼちやっているようなところにこの負担は厳しい。そうでなくても、ファストフードを除けば、地方の飲食店の売り上げはとっくの昔から下落傾向。利益を圧迫され、職業として成り立っていかなくなるところまできているというのに。
――禁煙、喫煙のどちらか一方に決めれば、設備投資は不要になりませんか?
馬場 地方では難しいでしょう。都会ならお客さんの数が多いから、受動喫煙の心配がなくなることで、かえってお客さんが増えることもあるかもしれません。
でも、熊本ではそうはいきません。お客さんは限られた地元の方々です。住み家は半径5~10キロ以内、タクシーでもせいぜい2000~3000円の範囲でしょう。夜は奥さんや旦那さんの車のお迎え、もしくはタクシーか運転代行で帰宅する。20キロ、30キロ先の神奈川・千葉・埼玉から大勢の人が電車で集まる東京とは違います。
お客さんは数が少ないうえに、たばこを吸う人、吸わない人で分かれて飲み食いするようなことはしませんから、喫煙者、非喫煙者のどちらか片方を切り捨ててしまっては商売が成り立ちません。
そもそも九州では、近年、企業や官公庁の拠点の多くが福岡県に移ったため、勤め人やその家族、彼らが連れてきていたお客さんもいなくなっています。
町に2、3軒しかないようなお店がなくなれば、みんな外で食事をしなくなりますし、従業員さんも仕事がなくなる。景気が沈み込み、消費税も上がる状況の中、何とか盛り返そうと一生懸命取り組んでいるところなのに、これでは水を差すことになってしまいます。
飲食店も飲み屋さんも、ホテルや旅館も、仕事で疲れた人たちがストレスを発散しにいくという社会的な役割を担っています。やはり、それぞれの職業がそれぞれに儲かってほしいし、そうでないと社会は回っていきません。