『人を動かす』
デール・カーネギー著、山口 博訳/初版1999年/創元社刊

視察を終えた夜、宿屋で風呂に誘われた私は、湯船につかった社長の背中越しに思わず弱音を吐いた。笛吹けど踊らず、支店長がこんなに孤独とは思わなかった、と。すると黙って聞いていた社長は一言。

「樋口クンな、長たるものは決断が一番大事やで」

私の悩みに直接答えてくれたわけではないが、その一言にハッとした。信念を持って進めと背中を押されたような気がしたのだ。

人を動かすのは、結局、率先垂範とコミュニケーションである。その日から私は社員の一人一人と朝に晩にマンツーマンで徹底的に対話するようになった。胸襟を開いて自分の思いや考えを伝え、時に自分の弱い部分も晒す。相手の話にもじっくり耳を傾けて、互いの本音で語れるように心掛けた。

コミュニケーションが濃密になり、一体感が格段に増した山口支店は1年後に社員1人当たりの売上高、利益率で全国トップになった。以降、大赤字の福岡支店でも巨額の債務を抱えていた大和団地でも、徹底対話によるコミュニケーションで組織を活性化させてきた。『人を動かす』にも、「聞き手に回る」「自分のあやまちを話す」といった項目が出てくるが、柔と剛の部分を持ち合わせていなければ企業家としては大成しない。それを最初に示唆してくれたのがカーネギーの『人を動かす』であり、トップの処し方を、身を以って教えてくれたのが石橋社長だった。

※すべて雑誌掲載当時

(小川 剛=構成 森本真哉=撮影)
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