やる気がない部下に辞めてもらう
「君たちはお公家さんの集団か!」
1993年6月、大和ハウス工業の専務から当時のグループ会社の大和団地の社長へ就任した私は、最初の全体朝礼で大声を張り上げました。大規模な宅地開発を手がけていた同社は当時、バブル崩壊のあおりを受けて債務超過寸前に陥っていました。朝礼の会場は静まり返り、社員はみな伏し目がちで、私を正面から見ようとしません。上品で礼儀正しいけれど、闘志が感じられない。ただし、みな素直だから、やる気を引き出しさえすれば見込みは十分あると思い、あえてそういう表現でハッパをかけたのです。
その後、リストラ(人員削減)はしませんでしたが、代わりに厳しく働いてもらうことにしました。大規模団地開発からは撤退し、マンションと木造住宅の販売に力を注いでもらったのです。すると、1年目の3月に120人ほどが退社してしまいました。大半はバブル入社組で、それまでぬるま湯につかっており、厳しさに耐えられなかったのでしょう。一方、ほぼ同数のやる気に溢れた新入社員が入り、完全に攻めの体制に変わりました。
一方、役員に対してはより厳しく臨みました。ある支店で不正経理が判明、ひんぱんに優秀な社員が辞めていることがわかり、調べたところ駐在する常務取締役に原因がありました。辞表を求め、さらに悪弊が露呈してきた別の2人の役員にも辞めてもらいました。仕事は勝負です。己に勝てない人間が商売相手に勝てるはずがない。ましてや役員は責任ある立場で、社員の模範となるべき存在です。彼らには「やる気がないんやったら辞めてくれ」と率直に言いました。
こうした取り組みが奏功し、大和団地は2年目に黒字転換を果たし、7年後の2000年3月期には売上高1441億円と社長就任時に比べ倍増し、復配を達成しました。
私は、人間の能力というのは、普通の会社の普通の仕事をするうえでは差がないと考えています。違いは意欲があるかないかなのです。私は社員が意欲を出すように仕向けただけで、みんながやる気になったから業績が改善した。私はいつも「凡事徹底」と言っています。当たり前のことを当たり前にやる。難しいことをやれと言うのではなく、明るいあいさつ、思いやり、約束を守るといった普通のことです。