逆算発想などで、売上高10兆円目指す

悲しいことに、人はとかく既成概念にとらわれやすいものです。特に新しいことに挑戦するときはそうなりがちで、いとも簡単に諦めてしまいます。本社の取締役特建事業部部長時代のことでした。建築の工業化を推進するなかで、現場施工の効率化の徹底を図るために、私は「4M工法」を提案しました。具体的にいうと4つのM=無。「無足場、無コーキング(充填剤)、無塗装、無溶接でやれ」と命じたのです。

ところが、技術者たちは「そんなことできません」と猛反発。すぐさま「試しもせんと、できんとは何じゃ。おまえらの頭のなかは既成概念でカチカチや。やってみてから言え」と叱り飛ばしました。これは目標を定め、それを達成するためには何が足りないのかを考えよという、いわば“逆算発想”です。研究開発の結果、足場を組まない「4M工法」は見事に実現しました。

また、私は「3現主義」(現場、現物、現実)を唱え、海外事業でも貫いています。現在のダイワハウスマレーシアを立ち上げたのは当時30代の社員で、まず現地で戸建て住宅を手がけたいと私に直談判してきました。資料に目を通した私は尋ねました。「この資料の内容は現地で見てきたんか」と。「まだです」と言うので、「話にならん。現地に行って調べてこい」と叱りました。机上の空論ではなく、3現主義に基づかない限り、現地の真のニーズを掴めないからなのです。そして、彼は見事にやり遂げ、初代社長に就任し、現在は日本国内で活躍しています。

会長・CEOである私が現場で社員を叱責することはほとんどなくなりましたが、これまで現場で厳しくしてきたのは、社是の最初に掲げられた「事業を通じて人を育てること」の実践にほかなりません。

2055年、当社は創業100周年を迎えます。石橋オーナーから、そのときは10兆円企業群になるよう宿題を出されています。19年3月期の売上高は4兆円を超える予想で、まだまだ努力が必要ですが、着実に歩んでいます。また、営業利益も9期連続増益の予想で、過去最高益の見込みです。社員はみな真剣勝負をしてくれており、「夢」は必ず実現すると信じています。

己に勝てない人間が商売相手に勝てるはずがない

樋口武男(ひぐち・たけお)
大和ハウス工業 代表取締役会長・CEO
1938年、兵庫県生まれ。61年関西学院大学法学部卒業。63年大和ハウス工業入社。取締役、常務取締役、専務取締役を経て、93年大和団地代表取締役社長に。95年に同社を黒字に転換。2001年大和ハウス工業代表取締役社長に就任。04年より現職。
(構成=田之上 信 撮影=加々美義人)
【関連記事】
会社が絶対手放さない、優秀人材6タイプ
銀座クラブママ証言「デキる男」の共通点
ココイチ創業者「シャツは980円で十分」
アパ社長が"勉強するな"と息子を叱るワケ
会社をダメにする「困った社員」6タイプ