建物からの情報を見逃さない“目”。それが、業績を伸ばし続けるうえで欠かせないポイントだ、と竹林桂太朗(40歳)は語る。
「お客様と対面する前にわかる情報はたくさんある。そこに気付ければ、互いの時間をムダにしないですむんです」
数十億円もの大型倉庫や物流センターなどの営業を手がける竹林は、建築事業部で2番目に若い課長として、7人の部下を持つ。平均年齢は、30歳に満たない。が、全国約40チームで常にトップの売り上げを誇る。2008年の受注額は200億円を超えた。課長になる前は、例年、営業成績で1位を争い、06年には社長賞を受賞した。
とはいえ、入社した16年前を「何事にも慎重な性格だったので、営業に向かないんじゃないかと不安だった」と顧みる。
当時、営業先に向かう前には必ず茅場町の証券会館で有価証券報告書に目を通した。提案の内容を練り上げるのだが、うまくいかない。担当者に会っても提案する機会がもらえない。門前払いも少なくなかった。
「むなしかった」と竹林は零(こぼ)す。下調べに時間を費やせば費やすほど、人に会う時間は減る。そんな悪循環から脱しようとノルマを課して、とにかく営業先を回った。いくどかの失敗を経験しつつ、気付いたことがあった。
きっかけは言葉だった。顧客は、食品メーカーや製造業者、流通業者など多岐にわたる。業界が変われば、使う言葉も違う。例えば、一般の倉庫は「坪」単位だが、冷凍倉庫は「トン」。様々な企業を訪問した結果、「業界の言葉を知ったことで相手の仕事が理解できた」。
営業先に「わかっているな」と認められれば、意思疎通のための面談は、必要最低限ですむ。営業マンでありながら、空いた時間は、設計や工事の現場にも足を運んだ。独学ではあるが、図面も引くようになった。
提案から竣工、そして、メンテナンスまで立ち会ったからこそ、生まれた視線があった。
「人の表情や仕草と同じで、建物からも情報が得られるんです」と竹林は続ける。「例えば、天井の三灯用の蛍光灯を一本抜いていれば、コストにこだわる会社だと想像できます。そんな些細な積み重ねが、お客様のニーズを見極める重要なポイントになる。建物は、資料にはないヒントを与えてくれるんです」。
新人時代、竹林は、平日だけではなく休日も利用して「建物診断」をした。築年数、躯体構造、メンテナンス状況……。診断棟数は、1000棟を超える。築年数をピタリとあてて営業先に驚かれたこともある。
通常、顧客の要望や不満などは、対話から探っていく。ただし、ヒントは、面談の時間だけにあるのではない。竹林はいう。
「見聞きを意識することで、限られた時間の質を高めることができるんです」
(文中敬称略)
※すべて雑誌掲載当時